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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2006年分

特殊清掃「戦う男たち」

金魚すくい

腐乱現場でやる仕事は色々ある。
除菌消臭から家一軒丸ごとの解体処分まで、依頼される内容な多様である。
その中でも最も多いのが、家財道具・生活用品の全て一式を撤去し除菌消臭する作業。
ついでに内装工事まで依頼されることも多い。撤去する中身の主役は、もちろん腐乱死体に汚染されたモノである。

今回も、その様な依頼だった。
独り暮らしの故人は普段から病気がちで、一人で家にこもっていることが多かったという。

フローロングのリビングで倒れ、そのまま腐ってしまっていた。
汚染家財をはじめ、部屋にあるものは全て回収撤去した。作業中は作業に集中して、黙々とやることが多い。ほとんどの物を撤収してから、ふと気がついた。
リビングには水槽が3つあり、中には色違いの金魚が数匹づつ泳いでいる。

何日も前から(故人が死んでから)、餌も与えられてなかっただろうし、電気が止められたため酸素を送る機械も停止していたはず。
なのに、一匹も死なずに、全員(全匹?)生きていたのである。ちょっと驚いた。

勝手に想像すると、独り暮らしで病弱な故人にとっては、犬猫を飼うのは負担が多き過ぎる。金魚だったら、肉体的負担もないし、水槽はインテリア的にもお洒落だし、水の中を泳ぐ魚を見ると気分が癒されたのではないかと思う。

しかし、この金魚達。
自分達を可愛がってくれていた人が目前で倒れ死に、腐っていく様子が水槽の中から見えていただろうか(位置関係で言うと見えていたはず)。
仮に、金魚にも感情・思考力があると仮想してみようか。
彼らは飼主が死んで腐っていく様を見ていた訳である。しかも、腐乱していく様子が目の前で見えてしまっていては辛い!
自分達を愛してくれた人を失って、悲しくて寂しかったことだろう。

しかし、彼らは、飼主の死を悲嘆しているばかりもいられない。
何故なら、餌を与えてくれる人もいなくなり、おまけに酸素供給機もストップ!「死」は他人事ではなく、自分達もその直前の状況に置かれてしまったからである。

「この状態で、自分達はいつまで生きられるのだろうか・・・」

と不安はつのるばかり。しかし、一向に誰かが来る様子もない。
どこから現れたのか、倒れたままの飼主にはウジがたかり始め、こともあろうに飼主の身体を食べ始めてしまった。
飼主にたかったウジ達は丸々と肥えてハエになっていく。愛する飼主が餌にされて(悲)。

その間、飼主の身体はバンバンに膨らんだかと思うと、今度は液体を流しながら溶けだした。
ハエがまたウジを産み、ウジがまたハエになり、みるみるうちに増殖していく。
一方の自分達は、だんだんと息苦しくなり、空腹感も襲ってきはじめた。
極限状態に置かれた金魚は、何のなす術もなく、ただただ助けが来るのを待つしかなかった。助けが来るのが先か、自分達が死ぬのが先か・・・ノイローゼ寸前。

何日もして、やっと誰かが来た。
ずかずかと入り込んで、なにやら騒いでいる。そのうち、飼主の身体は運び去られていき、腐敗痕だけが残された。

「やっと助けが来た!これで助かる!」

と喜んだのもつかの間、誰も、自分達に気づいてくれないまま、いや、気づいても気づかないフリをしたまま居なくなってしまったのである。

その後、何度かは騒々しく人の出入りがあったが、結局、誰も自分達のことを気に掛けてくれる人はいなく、人間という生き物は冷酷だということが初めて分かった金魚達であった。
飼主があまりに優しく愛情深かったため、金魚達は、全ての人間は愛情深く優しいものだと大きな誤解をしていたのである。
人間が冷たい生き物であることを知ってしまった金魚達は、もう生きる望みを失った。
あとは、酸欠死か餓死かの違いがあるだけで、黙って死を待つしかない金魚達。

そこに現れたのが、彼等の救世主?特掃隊長!(自分で書いてて恥ずかしい)

私は、最後に残った水槽を覗いてみて、金魚が生きていること驚きながら困惑した。
ゴミとして捨てる訳にもいかないし、そのまま置いていくと依頼者との約束を破ることになる。

三つの水槽はそれなりの大きさで、それなりの器具がついている。
とても、そのまま運んで行けるようなものでもなく、思案した。
当然、結論は「救う」しかない。それよりも、「どうやって救うか」が要だった。
とりあえず、金魚達を多少の水と一緒にビニール袋に入れて、それを運転席に乗せて車を走らせた。ここまできて、酸欠とかで死なせたらもともこいうもない。とにかく、急いで走った。

目的地は、とある公園の池。人目を避けるように、金魚達を池に放してやった。
この私の行為は、自己満足に値するものだったが、公共の池に勝手に魚を放すことは犯罪行為になるんだろうか?どちらにしろ、その時は調べているヒマはなかったけど。

縁日の露店によくある「金魚すくい」。
私は、子供の頃からド下手なもんで、いつの頃からかチャレンジさえもしなくなった。
でも、今回の金魚救いは上手にできた。

 

善い行いをすると気持ちがいいもんだ。
晩酌もいつもより美味く、ツマミの刺身もうまかった!

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