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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2006年分

特殊清掃「戦う男たち」

愕然!

ある不動産管理会社から自殺腐乱現場の見積依頼がきた。
場所は、一般には高級住宅街と言われる地域。
中年男性の首吊り自殺だった。自殺の理由は借金苦。
管理会社の担当者に聞くまでもなく、部屋に散乱していたクレジット会社や消費者金融からの請求書で、それは容易に察することができた。
マンションの築年数はそれなりに経過しているものの、その立地もよく高級感のあるたたずまいで、いかにも「買うと高そうだな」と思われるような建物だった。

管理会社立ち会いのもと、いつもの調子で現場の部屋へ。
管理会社の担当者は玄関の外で待っていた。
腐乱痕と腐敗臭以外は、特に変わった雰囲気もなく、多少散らかっている程度の部屋だった。もちろん、毎度のウジ・ハエもたくさんいた(彼等の存在は当り前過ぎて、いちいち書くのも面倒になってきた)。

見積作業では、色々な角度からその部屋を観察しなければならない。
見積り一つ間違うと、赤字仕事になってしまうからである。
私の会社は、一発見積りで金額を確定し、作業中や作業後になってグズグズ言って追加料金をせびるようなことは一切しない。
現場業務はもちろん、金銭的にもクリーン第一!(宣伝)。

その際、何気なく見た本棚に、「ん?」と思うような固有名詞の入った書類が目に留まった。
「これは・・・」、そこには、ごくごく一部の、ごくごく特定の人間にしか分からないような資料があったのである。
そして、その「一部・特定の人間」に私も含まれていた
「なんで、○○の資料がここにあるんだ?」と少し驚いた。
嫌な予感がして、「まさか・・・!」と思いながら、更に目を凝らして部屋を見渡した。
写真タテに飾られた写真もいくつかあり、写真に写った人物を見て愕然とした!
「これは○○さんじゃないか!?」と。
何枚かあった写真を一枚一枚顔に近づけて、何度も何度も見直した。
なんと、写真に写っていた人物は私が見知った人だったのである!
いきなり、心臓がバクバクし始めて、「まさか!人違いだろ!?」「人違いであってくれ!」と思いながら夢中で名前を確認できるものを探した。
氏名はすぐに判明し、力が抜けた。残念ながら、やはり故人はその人だった。
心臓の鼓動は不規則になり、呼吸するのも苦しく感じるくらいに気が動転した!

故人とは、二人で遊ぶ程の親しい間柄ではなかったが、あることを通じて知り合い、複数の人を交えて何度か飲食したり話しをする機会があった。
見積時は、縁が切れてから既に何年も経っていたが、関わりがあった当時のことが昨日のことにように甦ってきた。

彼は当時、かなり羽振りがよさそうにしていて、高級外車に乗っていた。
高級住宅街に住んでいることも自慢していた。
自慢話が多い人で、自分の能力にも生き様にも自信満々。
かなりの年齢差があったので軽く扱われるのは仕方がなかったけど、正直いうとあまり好きなタイプの人物ではなかった。
しかし、「(経済的・社会的に)自分もいつかはこういう風になりたいもんだなぁ」と羨ましくも思っていた。

その人が、首を吊って自殺した。
そして、目の前にはその人の腐乱痕が広がり、ウジは這い回りハエは飛び交っている。
自分が今まで持っていた価値観の一つが崩れた瞬間でもあった。
しかも、よりによってその後始末に自分が来ているなんて・・・気分的にはとっとと逃げ出して、この現実を忘れたかった。
身体に力が入らないまま、とりあえず見積作業を済ませて、そそくさと現場を離れた。
その時の私は、「この仕事は、やりたくない・・」と思っていた。

もちろん、管理会社には、故人が自分と知り合いだったことは言わなかった。言えもしなかった。管理会社だけではなく、その時は誰にも話したくなかった。
でも、否応なく注ぎ込まれる嫌悪感が自分の心のキャパシティーをはるかに越えていた。
誰かに話さないと自分がおかしくなりそう・・・だけど、誰にも話せない・・・。

同情心でもない、悲壮感でもない、喪失感でもない、なんとも言えない重いものが圧し掛かってきて、しばらく気分が沈んだ日々を過ごした。
その人が持つ経済力や社会的地位だけとは言え、羨望視していた人が金銭苦で自殺した・・・その厳しい現実をどう受け止めて消化してよいものやら・・・私の心は完全に消化不良を起していた。
そして、それを消化するのにかなりの時間を要したのである。

作業的なことでは経験を積みながら随分と鍛えたれ、神経もズ太くなって打たれ強くなっていた私だが、知人の死についてはかなり打たれ弱いことが自分自身の中で露呈した。
(もちろん、今は立ち直っているからブログに書いている訳だが)

結局、不本意ながらもその現場の特掃依頼は入り、作業を実施することになった。
本当は行きたくなかった。
でも、仕事は仕事、依頼者に対しても責任があるし、お金をもらう以上はプロとしての仕事をやってみせるのがスジ。
更には、自分自身に「こういう現実から目を逸らして逃げてはいけない」という自戒の念が働いた。
仕事を通じて依頼者をサポートするのが私の責任なのに、当の私が逃げていたのでは話にならない。
依頼者である遺族や関係者は、逃げたくても逃げられないのだから。

現場では、とにかく無心で作業した。
いつもより、無意識に急いでやったように思う。
写真はもちろん、名前がでているようなモノもあえて見ないようにして作業を進めた。
普段は、無神経に見えるくらいの態度と雰囲気で仕事を進めるのだが、「故人が知人となると、ここまで気が重くなるものか・・」と重い気分と新鮮な感覚が交錯した。
故人には申し訳ないけど、少しは遺族側の気持ちを体感することができて、私にとってはいい薬になったかもしれない。
そして、自分の弱い部分が自覚できたことも収穫と言えば収穫。

更に、「あれだけ自分の人生に自信を持ち自分の生き様を自慢していた人が、最期をこういうかたちで迎えることになるなんて・・・」「先々のことは本当に分からないな・・・」とあらためて痛感した。

自殺志願者の気持ちは少し理解できる。
無責任なことを言うようだけど、とりあえず空気を吸い、何かを食べ、雨時々曇りの人生でも、惰性でもいいから、もう少し辛抱してこの世に存在してみたら、意外なところから陽が照ってくるかもしれない。
本当は、いくつかの道がまだ残っているのに、余計なプライドとか世間体とか怠け心(甘え)等が、自分の歩みを邪魔しているってこともあると思う。
死にたくなったらいつでも死ねる。
でも、いくら生きていたくても寿命ばかりは自分で決めることはできない。

誰の人生も、のんびり晴れた日ばかりじゃないと思う。雨も降れば風も吹く。時には暴風雨が襲ってくるかもしれない。
風雨に曝されるのに耐えられなかったら、雨風が凌げるところへ避難すればいい。
「根性なし」「弱虫」「負け犬」などと罵られても、逃げればいい。
格好悪くてもいいから、逃げればいい。
無理に気張ってビショ濡れになっても、結局、風邪をひくのは他人ではなく自分。

そんなことを考えながら、日々、目まぐるしく変わっていく心の天気に逆らわずに生きられるよう自分を励ましているのである。

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