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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2006年分

特殊清掃「戦う男たち」

ブラックホール

便所の話。
そこは「お手洗い」とか「トイレ」という呼称は似合わない、いかにも「便所!」という感じの現場だった。
発見が早かったためか、汚染は軽いもの済んでいた。
悪臭も腐乱臭なのか便所臭なのか分からないくらい。
それよりも、私はその便所の形態に驚いた!
水洗式ではなく、いわゆるボットン便所。
しかも、私が知るボットン便所よりはるかにハイグレードで古風なモノだった。

ほとんどの人が「ん?どんな便所だろう?」と、その便所の形態を理解できないと思うので、詳しく説明しておこう。
地面に深さ1.5~2.0m、直径1.5~2.0mくらいの穴を掘る。
その上に床板を敷き、屋根と囲いをつける。
床板に直径20~30cmの穴を開ける。
床板に和式便器をくっつけて完成。
あまりにシンプル過ぎて、これ以上詳しく説明できない。

大きな口を開けた和式便器を覗き込んでみると、下は真っ暗のブラックホール状態。
深くて大きな穴が開いているらしかったけど、真っ暗で何も見えない。
それは、悪臭を忘れるくらいの不気味さがあった。
そして、小心者の私には、薄くて古ぼけた床板に乗る勇気はなかった。
床板には悪いけど、その風貌からは強度を信用する訳にはいかなかった。
信用性が乏しいこの床に乗るということは、一種のロシアンルーレットみたいなもの。
万が一にも「バキッ!」といってしまったら、アウトーッ!
「故人はいつもこの床板に乗って用を足していたのか・・・勇気あるなぁ」と感心してしまった。

しかし、シンプル便所と故人の勇気に感心してばかりもいられない。
これを何とかしなきゃならないのが私の仕事。
トイレや風呂で死ぬ人も少なくないので水回りの始末も慣れてはいたが、ここまでシンプルな便所は見たことがなかった私。
「汚い」というより「怖い」という気持ちの方が大きかった。
掃除するより解体した方が早いと判断して、依頼者に相談。

汚染されているのは床板の一部と便器が少し。
もう誰も使わない便所なので解体することで話はまとまり、すぐさま作業にとりかかった。
どうしてもブラックホールへの恐怖心が抜けない私は、恐る恐る床板の隙間にバールを差し込んだ。
驚いたことに、床板の一枚一枚は固定されている訳ではなく、細い梁にポンとのせられているだけだった。
「えッ?こんな簡単なもんだったの?」
おかげで、便器も床板も簡単に取り外せて作業的には楽だった。

そして、床板を外すと底の穴が露になった。
「これが肥溜というヤツか!」
ずっと以前から言葉では知っていた肥溜、その本物を生まれて初めて見た瞬間だった。
その光景にはちょっとした衝撃を受けた。
そして、妙に感心したというか感銘を受けたというか・・・人が生きることの凄さのようなものを感じた。
肥溜に、生きるエネルギーみたいなものを感じる私は変?・・・やっぱ変だろうな(苦笑)。
そしてその中ではウジが気持ちよさそうに泳ぎ、ハエが気持ちよさそうに飛んでいた。
彼らは、いつも私の行く先々に先回りする賢い連中だ(笑)。

そして、肥溜の臭いは鼻にツンとくる刺激臭で、「アンモニアの影響か?糞尿が熟成されるとこんな臭いになるのか!」と、またまた感心してしまった。

ちょっと余談。
下水道が完備されていな地域では、行政による糞尿回収サービスが行われている。
たまに、その車を見かけることがあり、車輌後部に表記してある積載物欄に「糞尿」と書いてあるのが印象的。当然、それに従事する人もいる。
子供の頃の風説に、その仕事に従事する人のことを言ったものがあった。
「身体にウ○コの臭いが染みついていて、風呂に入ったくらいでは臭いは落ちない」というもの。
実際にその仕事に従事する人と接したことがないのでハッキリしたことは分からないけど、
多分それはガセ。
濃い!腐乱臭が着いた私でも、ユニフォームを着替えて風呂に入れば完全に臭いは落ちるから。
変な偏見は持たないで、そんなことを言っている子供達がいたらキチンと否定しておいてね(笑)。

私を含めて、現代の男どもは軟弱になっているような気がする。
歳のせいもあるのかもしれないけど、最近の若者は、外見からは性の違いが分かりにくくなってきているような気もする。
最近の家庭は、ほとんどが水洗・洋式。そして、小でも便座に座る男が増えているらしい。
筋肉に負担が大きい和式便所にまたがって、心もとない床板に勇気を持って身体をあずけていた故人は、この有り様を憂いているかもしれない(完全な想像)。
男として、もっと強くなりたいものだ。

しっかし、便所ネタでここまで語れる私ってウ○コ臭い・・・もとい、ウサン臭いヤツかもね。

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