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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2006年分

特殊清掃「戦う男たち」

年輪

遺体処置業務で、ある家に訪問した。
一般的な先入観を持って行くと悲しみに包まれているはずの家だった。
しかし、その家は違った。

無邪気な子供達が、場もわきまえずに走り回ったりして大騒ぎ。
大人達は、久し振りに会った人達とのお喋りに夢中になり、誰も子供達を制止する人はいない。
葬式につきものの辛気臭い雰囲気はどこにもなかった。
ま、その方が仕事をしやすい。

故人は年配の男性。
どことなく笑っているような、安らかな死顔だった。
一人の孫と故人の奥さんが遺体の傍についていた。

小学校高学年くらいのその孫が奥さん(祖母)に色々と質問をしていた。
そのやりとりを、私は作業をしながら黙って聞いていた。

Q:「死ぬ時は苦しいの?」
A:「苦しくないよ」「お祖父ちゃんだって笑ってるでしょ」
Q:「死んだらどうなるの?」
A:「みんな好きな場所に行くんだよ」「天国に行く人が多いね」
Q:「淋しくないの?」
A:「天国にもたくさんの人がいるから淋しくないよ」
Q:「おばあちゃんは、死ぬのが恐くないの?」
A:「恐くないよ」「おじいちゃんが居てくれるからね」
Q:「人は何故死ぬの?」
A:「・・・」

女性は答に詰まったのか、わざと答えなかったのか分からなかったが、黙ったままだった。
気になった私は手を止めて女性の方を見た。
すると女性は、故人の手を握りながら「何故、人は死ななきゃならないのでしょうね」と、私に尋ねてきた。

いきなりの質問、しかも難しい質問を投げ掛けられて、私は少し焦った。
少し間を置き、「あくまで自論ですが・・・」と前置きしてから静かに答えた。
「まず、自分(人)の無力さを知るため」
「そして、命が価値あるもので在るため」
「・・・私は、そう思っています」

「・・・そうねぇ」と女性。
孫は不可解そうな顔をしていたが、女性は微笑みをながら聞いてくれた。

正解のない質問に素直な気持ちで応えだだけ、若輩者のだだの自論だった。
だけど、女性は異を唱えることなく聞いてくれていた。
歳を重ねているが故の余裕のような包容力を感じた。

「この歳になっても、この人(故人)と死に別れることなんか夢にも考えていなかった」
「この人は、死なないような気がしていた」
「二人で楽しい人生だった」
女性の胸の内を聞いて、黙って頷いた私。
人生の先輩からの重い言葉だった。

樹に年輪があるように、人にも年輪があるのだろう。
子供にも老人にも、それぞれに命の価値と生き様がある。

「老いを笑うな我が行く道、子供を叱るな我が来た道」
昔、誰かが私に教えてくれた言葉を思い出す。

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