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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2006年分

特殊清掃「戦う男たち」

空は夏から秋へと変わりつつある。
少しずつ過ごしやすい季節になってきた。
こんな時季は大気も不安定。
夏と秋が押相撲をしているようなものか。
あちこちで落雷が発生している。
雷にあたって亡くなる人もいるくらい。
特に、朝の雷は要注意らしい。
秋が夏を寄り切るまでは、しばらくこんな空模様が続くのだろう。

ある家で遺体処置をしていたときのこと。
遺族の中に二十歳前後の男性が二人いた。
二人は私の作業を遠巻きに、もの珍しそうに眺めながら話していた。
回りが静かな分、二人の話し声は誰にも聞こえるものだった。

「お前、仕事を探してんだろ?この仕事やったら?」
「ふざけんなよぉ、やれる訳ねぇだろ!」
「それにしても、よくやるよなぁ」
「だよなぁ」

私の仕事を奇異に思い、嫌悪した会話であることは誰にも明らかだった。
そして、私の耳にも、他の遺族にもハッキリ聞き取れていた。
私は、聞こえていないフリをして作業の手を動かし続けた。
遺族は私から視線を逸らして、それぞれが聞こえていないフリをしているようだった。

私は、誰とも目を合わさないように注意しながら、さりげなく全員の様子を伺った。
気まずそうに下を向いている人、ヒソヒソ話をしている人、ニヤニヤしながら隣の人とつつき合っている人etc、色々いた。

若い二人は、自分達の声の大きさは気にすることなく、話しに夢中になっていた。
二人は故人の孫らしく、従兄弟か兄弟のようだった。
そして、故人を取り囲む遺族の中に二人の親らしき人もいた。

遺族の誰かが、親に合図を送っていた。
さしづめ、「子供達を黙らせろ!」といったところだろう。
親は困った様子ながら、一向に子供達を制止するような行動はとらなかった。

その場は、故人の死を悼む雰囲気が消え、皆が気持ちの置き所を失ったような気まずい雰囲気が漂っていた。

こんなことには何度も遭遇している私だが、その度に色んなことを考えさせられる。
そして、時には不快に、時には悲しく、時には腹も立つ。
そして、今回の場合は残念に思った。

人が頭の中で何を考え、腹の中でどう思おうと、その人の自由だ。
ただし、言葉にして発すると意味は変わってくる。
更に、それが相手に聞こえてしまっては、もうそれは陰口ではない。
言葉が暴力になってしまうこともある。

私は、若者二人から投げられた言葉はほとんど気にならなかった。
そんなの日常茶飯事だし、自分の中にも似たような葛藤が付き纏っているから、他人のことをどうこうと言えた柄ではない。

残念な気持ちは、若者二人の陰に隠れてモジモジしている大人達の姿にあった。
言いたいことがあるのに言えない(言わない)大人達。
言うべきことを言わずして、言わなくていいことを言う大人達。

実は、礼儀・マナーと世渡りのテクニックは相関するものだったりする。
しかし、多く人がそれを相反するものとしているのではないだろうか。

この家の親子に見られたように、今の社会は、親子の縦関係が崩れているような気がする。
横関係、つまり親子が友達のような関係であることが良しとされる風潮になっているということ。

例によって個人的な自論だが、やはり親子関係はキッチリした縦関係であるべきだと思う。
親は子供に言うことをきかせるべきであり、子供は親の言うことをきくべき。
そのためには、楽しいばかりの馴れ合い関係ではなく、厳しさも備えた信頼関係が必要。

厳しくしているつもりで冷たくしてしまうこと、優しくしているつもりで甘やかしてしまうこと、そんなことをやってはいないだろうか。

こんな社会には雷が必要だと思う(自戒も込めて)。
雷親父が落とすデカいヤツね。

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