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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2006年分

特殊清掃「戦う男たち」

戦う日々

「死んだ方がマシだ」「死んでもいい」「もう死にたい」「死んでしまえ」「死ぬー」etc

自分の伝えたいことを強調するために、こんなセリフを使うことはないだろうか。
「死」と言う言葉を織り交ぜて、感嘆詞として無意識に使っている人は案外多いと思う。
そんな日常に心当たりはない?

私は、この仕事を始めてから「死語」(死という言葉を混ぜた感嘆句)を軽はずみに使わなく、イヤ、使えなくなった。
本当の死が、多くの死があまりに身近になったから。
誰しも本当の死を考えて吐いているセリフではなく、特に深い意味もないのだろうが、私の場合は、本来そう簡単に使えるような言葉ではないことに気づかされている。

以前にも書いたが、この仕事を始めて最初に出会った遺体は、おじいさんの亡骸だった(遺体処置作業)。
まるで生きている人が眠っているだけのような遺体を見つめながら、
「この人、死んでるんだなぁ」
「この人、死んでるんだよなぁ」
と、心の中で繰り返し呟いたのを憶えている。
そして、人が死ぬという不可解な現象を漠然とながらも重く受け止めたものだった。

特掃に行くのは、それからしばらく先のことになるのだが、不思議なことに初めての腐乱現場を憶えていない。
初期の頃の現場はいくつか記憶しているが、最初の現場がどれだったのか記憶が定かではないのだ。
あまりにインパクトが強過ぎたため、脳の防衛本能が働いて憶えていないのかもしれない。

遺体処置・遺体搬送・遺品整理・遺骨葬送etc、死体業の仕事は色々あるが、ショック度やインパクトの強さは特掃が他を圧倒している。
仲間にも、「他の作業はできても特掃だけは無理!」と言う者が少なくない。
バカの自慢話として聞いてもらいたいが、私は他の仕事にも増して特掃に燃える。
グロい現場であるほど、私の出番になる。
「特掃隊長」と呼ばれるだけのことはある(だだの自称だけど)。

特掃作業は誰か他の人に気を散らすことなく、ひたすら作業に集中できる。
敵は汚物・ウジ・ハエ、そして自分。
本ブログの表題、「戦う男達」が意味するところはここにある。
戦いの相手とは、本当は自分なのだ。

これは、何も死体業にかぎったことではなく、どんな職業にも当てはまることだと思う。
イヤ、仕事だけじゃなく、生きている人、一人一人全員に当てはまるものだろう。

生きることは自分との戦い。
真の敵は、他人や社会ではなく自分。

私にとって特掃作業は、自分の敵である真の自分が極めて露骨なかたちで現れ、その格闘が自覚できる貴重な場・・・うまく表現できなくて申し訳ないが、少しは分かってもらえるだろうか。

人間の腐敗液に滴り落ちる自分の汗。
静まりかえった腐乱現場に聞こえる自分の荒い息づかい。
それぞれの死を思いながらも、凄惨な汚物に脳が拒絶反応を起こす。
身体に着いた悪臭が、弱い私を自己嫌悪の穴に突き落とす。

今でも、逃げたくなることは何度もある。
気分が落ち込んで、何日も抜け出せないこともある。
「いつかは俺も死ぬんだ」と、開き直る。
そんな負けっぱなしの毎日だ。

自分との戦いはまだまだ続く、生きているかぎり。
最終的な勝敗は死に際になってみないと分からなそうだが、せめて、最期は引き分けくらいで終えたいものだ。

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