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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2006年分

特殊清掃「戦う男たち」

昨日は夢、明日は希望

我々は多くの糧を得て命を保っている。
そして、糧を失った時に、または失いそうになった時に不安に襲われ、落ち込む。

糧には色んなものがある。
何も、お金や食べ物だけではない。
人と人との繋がりや関わり、人間関係も大事な糧の一つ。
あと・・・夢や希望もね。

「人間は社会的動物」と言われるように、人は一人では生きていけないのだろう。
生まれた時から回りに人がいる私は、厳密に一人きりになったことがない。
ま、この社会にいる限りは一人きりになるなんて不可能だろう。
しかし、妙な孤独感に苛まれている人や、「自分は孤独だ」と思っている人は多いのではないだろうか。

以前にも書いたように、私は死体業に就く前の半年間を実家の一室に引きこもって過ごした。
半年という時間は、引きこもりとしては短い方だったのだろうが、当時の私は完全に世間と人を嫌悪していた。
「怯えていた」と言ってもいいかもしれない。

誰とも会いたくなく、誰とも関わりたくなく、一人きりでいたかった。
学生時代の友人・知人はそれぞれの世界にあり、音沙汰のない私のことなんか気にも留めていなかったと思う。

私にとっては、夢も希望も笑顔もない半年だった。
「人生は疲れることばかり」
そう思っていた。

そんな私は、今でも「物理的にある程度満たされていれば、人間は一人でも生きていけるのではないだろうか」と思うことがある。
人間関係に疲れた時は特にそう。

ある人の仲介で、家財整理・廃棄の相談を受けた。
私は、とりあえず現場に出向いた。
老朽アパートの一室、部屋の主は初老の男性だった。
一人暮しの部屋は、かなり異様だった。
天気のいい昼間なのに、光がなかった。

男性が教えてくれた生活ぶりはこうだった。

昼間でも雨戸を閉めきり、外の天気や明るさとは無縁の生活。
外が明るいうちは外出することはなく、夜でも滅多に外に出ない。
風呂には入らず、時々、身体を清拭。
洗髪は、ポットの湯と洗面器を使って行う。
生活のパートナーは、もっぱらTV。
季節や時刻を知らせてくれるのもTVだけ。
人と関わることはほとんどない。

私は、ゴミ処分の見積りをするため、男性の要望を細かく尋ねた。
そんな会話の中で私が吐いた、「大変ですねぇ」というセリフに、男性は反応した。
そして、いきなり激怒し、私を怒鳴り散らし始めた。

「なんだ?この人は」
私は、驚いた。
そして、ムカついた。

私の吐いた同情めいた言葉が、気位の高い男性の勘に触ったらしかった。
「同情」ならまだよく、「見下された」「バカにされた」と思ったのかもしれない。

散々私に文句を言ったかと思うと、今度は私を罵倒しはじめた。
特に、その的は仕事。
一流ビジネスマンだったことを自負している男性には、仕事ネタが最も勝負しやすかったのだろう。

その昔、男性はそれなりの企業のそれなりのポジションでバリバリ活躍していたらしい。
男性は、輝いていた過去に縋って生きていた。
口から出るのは、昔の自慢話ばかり。
今現在の状況には目を閉じる。
自分を肯定し、他人を否定し続けていないと自分の存在そのものを維持できないようだった。

男性の一方的な話をしばらく聞いて(聞かされて)いた私だったが、段々と我慢ができなくなってきた。
私は、男性が依頼する仕事を断って帰ろうかと思った。

しかし、思い止まった。複雑な心境で。

この男性とは、表面的には違っているが、かつての私自身にも似たような心当たりがある。
今に輝きがなく、未来にも輝きが期待できない時には、過去の輝きにもたれかかって生きるしかなくなるのだ。

人は弱いもの。
きれい事を言うようだが、やはり、人が生きるためには人が必要。
どんなに小さなことでも、明日への夢と希望が必要。

夢とか希望って、自分の中で光るもの、人生を輝かせるものかもね。

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