Home特殊清掃「戦う男たち」2006年分飽食の陰でⅡ

特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2006年分

特殊清掃「戦う男たち」

飽食の陰でⅡ

および腰の遺族が、腐乱臭が漂う家に案内してくれた。
遺族は私に鍵を渡して後退。
私は、いつも通りに動揺を見せないようにして、事務的に玄関を開けた。
「きたな!」
濃い腐乱臭がモァ~ッと覆ってきた。
ハエがブンブンと飛び交う中、私は部屋の中へと進んだ。
汚染箇所は容易に発見できた。
「ありゃりゃー、ここかぁ」

それから周りを観察すると、妙なものが目に入った。
「ん?何だコレ」
死体痕の傍らに毛ムクジャラの何かが転がっていた。
「ん~?ぬいぐるみかな?」
「あ!犬?犬じゃん!」
そこには、犬の死骸が転がっていた。
飼い主に先立たれて餓死したのだろうか、毛の長い小型犬だった。

遺体を回収していった警察だって犬には気づいたはず。
しかし、彼等だって仕事だ。
犬の始末は仕事の範疇外なのでそのまま放置していったのだろう。

「うわぁ、可哀相になぁ」
私は、しゃがみこんで犬の死骸をマジマジ見た。
小さなウジがたかり、既に顔はつぶれていた。
飼い主が急死し、いきなり食料の供給が止まってしまって飢え死にしたのだろう。

飼い主が動かなくなってから、この犬はどのくらい生きていたのだろうか。
悪臭を放ちながら変色し膨らんでいく飼い主を見ただろう。
それから溶け始めるにはしばらくの時間を要しただろうから、液化段階を見る前に息絶えた可能性は高い。

見積見分の際は作業らしい作業はしない。
しかし私は、死骸とはいえ犬を放置していくことが可哀相に思えて、とりあえず腐乱現場から出してやることにした。

私は、きれいなバスタオルと適当な大きさの段ボール箱を探して来た。
そして、犬の身体を持ち上げようとした。
私の中で同情心と嫌悪感が戦っていた。

「うわっ!かてーっ(固い)!」
鳥肌を立てながら犬に触ってみた私。
そして、最小限の接触で持ち上げることを考えた。
「んー、どうやって持ちゃいいんだろうなぁ」
私はまず、小さな耳を指で摘んで引っ張ってみた。
ツンツン。
身体はウンともスンとも動かない。
「これじゃ、耳がちぎれちゃうな」
今度は身体の毛を摘んで引っ張ってみた。
ツンツン。
同じく動かない。
「こりゃ、ガッチリ掴まないとダメだな」
私は、諦めて胴体を掴み上げることにした。

「があ゛ー」
御多分に漏れず、腐敗した犬は腐敗液とともに床に貼り着いていた。
それを引き剥がすように、死骸を持ち上げた。
バリバリ!メリメリ!
犬は、ほとんど骨と毛皮だけになっており、倒れたままの状態で固まっていた。
「うへぇ~!きっつー!」
気の弱い私は、黙っては作業ができないのである。

広げておいたバスタオルに、持ち上げた死骸を置いて丁寧に包み、そっと段ボール箱に納めた。
「ヨシ!これでOK!」

飼い主の死因は知らされはしなかったけど、餓死ではなかったはず。
冷蔵庫や台所には、いくらかの食品が残っていたから。
しかし、犬は飢え死にしてしまった。
ドッグフードは残っていたのに。

動かなくなった飼い主を前に、空腹感が募ってきて苦しかっただろう。
飼い主が腐っていく様を見て、さぞツラかっただろう。
犬は鼻が効くだけに、その腐乱臭は堪え難かっただろう。

前記の通り、原則として初訪問・見積見分の時は作業はやらない。
ましてや、頼まれもしないことをやることはほとんどない。
しかし、汚い腐乱現場に犬の亡骸を放置しておくことができなかった。
私は、段ボール箱の柩を遺族に手渡して「作業費はいりませんから」と、安心の溜息をつきながら現場を後にした。

それにしても、思い知らされる。
色んな所に色んなかたちで、飽食の陰があることを。

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