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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2007年分

特殊清掃「戦う男たち」

便所掃除

昔々、私が小学校低学年だった時の話。
私が通っていた小学校は、校内の清掃を自分達(児童)がやっていた。
教室以外の公用部も、グループ分けされた児童が持ち回りで掃除することになっていた。
職員室・体育館・廊下etc、そしてトイレも。

子供の世界では(大人の世界でも?)トイレの掃除はぶっちぎりで不人気。
だから、トイレ掃除の当番に当たった者は「可哀相なヤツ」みたいな扱いを受けていたように思い出す。

ある時、私のグループにトイレ掃除の番が回ってきた。
私は、イヤでもなくスキでもなく、命じられるままに掃除にとりかかった。
当時から、気が弱くて主体性に乏しい子供だった私は、みんなが嫌がるトイレ掃除の中でも最も嫌われる便器掃除を暗黙の了解でやらされた。
まぁ、特に苦にもせず黙々とやる私だった。

そこに、教師が通りかかった。
素手に雑巾を持って便器を拭いている私を見た先生は、驚きながら私の行いを褒めてくれた。
「誰もが嫌がる便器掃除を、しかも素手でやるなんて偉い!」
ってな具合いで。
何事も、褒められて悪い気はしない。
ますます張り切って便器を拭く私(単細胞)だった。

先生には余程にインパクトがあったのだろうか、クラスのホームルームでもこのことを取り上げて私のことを褒めてくれた。
さすがに、そこまで褒め倒されると得意になる以上に「俺って変人?」と、複雑な心境になったのを覚えている。

承知の通り、私は、大人になった今でもトイレ掃除をしている。
生業として。
しかも、普通じゃないトイレばかりを。

「俺の汚掃除人生は、いつまで続くんだろうか」
余計なことを考えると気分が暗くなるので、あまり物事を深く考えないようにしたいのだが、何故だか考えてしまう。
「それも俺の性分」と諦めるしかないのだろうか。

また、余計なことを考えられるうちは、「まだ心的余裕がある」とも見ることができる。
マジでイッちゃってる特掃現場に遭遇したときは、余計なことを考える余裕はなくなる。
それで、頭の一部は楽になる。
反面、違う部分がツラくなるけど。
どっちが楽なのか、自分でも判断できない。

死体業、特に特掃は誰もが嫌がるものだろう。
人が嫌がることを率先してやっている私は偉いのだろうか。
子供の頃のトイレ掃除は無償の奉仕。
大人になってからのトイレ掃除は有償の仕事。
有償の仕事でやっている訳だから、特に偉いはずもない。

仕事を通じて、感謝してもらえることは多い。
ただ、礼を言われることはあっても、褒められることはない。
歳のせいだろうか・・・子供じゃないんだから仕方がないか。

以前にも書いた通り、私は世のため人のために仕事をしているつもりは毛頭ない。
人や社会への貢献は、二次的・三次的についてきているだけ。
虚しくなる時も多いけど、一次的には「自分のため金のため」だ。

そんな私でも、「たまには無償の奉仕をして人の役に立ってみたい」という願望がある。
誰も褒めてくれなくてもいいから。
でも、実際にそんな行動を起こさないところに私の弱さと汚さがある。

腐乱した人間の身体は弱くて汚い。
猛烈な悪臭を放つ汚物と化す。
故人や遺族に失礼な表現になるけど、糞尿よりも汚く思えるものかもしれない。
そんな遺体が使っていたトイレは並じゃない。

普通の人からすると、普通のトイレはそれなりに汚く感じるものなのだろうが、私にとって普通のトイレはやたらときれいに感じる。
たまに、自宅のトイレを掃除するけど、汚いなんてちっとも思わない。
糞尿の汚れなんて可愛いもんだ。

「やはり、この世で一番汚いのは人間なのではないだろうか」
時々、私はそう思う。

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