Home特殊清掃「戦う男たち」2007年分冬の花(中編)

特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2007年分

特殊清掃「戦う男たち」

冬の花(中編)

死者に花を手向ける習慣は、いつ頃から始まったのだろう。
葬儀・墓・仏壇etc
交通事故死が少なくない今は、道端に花が供えられている光景を見るのも珍しいことではない。
自然と定着したのか、時の権力者が定めたのか、まるで決められたルールでもあるかのように、いつも花。

別に花が嫌いなわけじゃないけど、なんでいつも花なのか、意味もなく不思議に思う。
花には、死者を弔うための力があるのだろうか。
それとも、人の一生は花のそれと重なる何かがあるのだろうか。
だとすれば、自分の人生における花は何なのか知りたいところだ。

「マズイ状態じゃなきゃいいけど・・・」
私は、床下の状態を想像しながら作業内容と手順は素早く組み立てた。
そして、下階の依頼者のオフィスへ戻った。

オフィスの入口で出迎えてくれた依頼者は、一瞬、表情を変えた。
ただ、私はその意味に気づくのが遅れた。

当然のごとく中へ入ろうとした私は、
「ちょっと待って下さい」
と声を掛けられた。
そして、
「・・・て、天気もいいし、外で話しましょうか」
と、外へ連れ出された。

「?、来たときと同じように中で話せばいいのになぁ・・・」
鈍感な私は、依頼者の行動がチンプンカンプン、その意味がなかなか分からなかった。
が、少しして、目を泳がせながら幾度となく自分の鼻を触る依頼者にピン!と感じるものがあった。
そう、私の身体が放つ腐乱臭が問題だったのだ。
腐乱芳香剤と化した私が入ったら、オフィスがどんなことになるかなんて誰だって想像できる。
私が気が利かないために依頼者に気マズイ思いをさせてしまって、ちょっと申し訳なく思った。

風通しのいい外で、私は現状を説明し、今後の作業について打ち合わせた。
私が風下に立ったのは、言うまでもない。

とりあえず、天井・壁クロスと床板の張り替えは必須。
その前後と間合に脱臭作業を細かく組み入れる必要があった。
床下については、深刻な状態になっている可能性が大きいことを伝えると、依頼者は表情を曇らせた。
今までの豊富?な経験からこの現場の対処法を導き出し、どんな悪い状態でも何とかなることを伝えて安心してもらうしかなかった。

作業の日。
基本的な消臭消毒をやって下準備。
そして、フローリング床を剥がすことから着手。
腐乱臭というヤツは、まったくあなどれない。
一つの作業手順を誤っただけでなかなか消せなくなることがあるのだ。

「(腐敗液が床板で)止まっててくれればいいけど・・・」
祈るような気持ちで、床板にバールを差した。

どこの現場でもそうだけど、古くもなく汚くもないモノを壊すときは、若干の抵抗感がある。
大袈裟な言い方をすると、環境を破壊するような罪悪感だ。

メリメリ!メリメリ!
痛そうな音を立てながら、フローリンク板は剥がれていった。
この現場の床は「直貼」、つまり床の基礎コンクリートに薄いクッション剤を挟んで板を貼るタイプの床だった。
このタイプの床板を剥がすのは、結構大変。
根気強く剥がしていくしかない。
バールを握る手にはマメができそうになるし、だんだん握力もバカになってくる。
単調作業が苦手の私にはひと苦労。
汗カキカキ、気持ちイライラ。
そのうちに、剥がれていく床板は汚染痕に近づいてきた。

グシュッ!
差したバールの先が湿っぽいイヤな音を立てた。
「残念!やっぱ、イッてそうだな・・・」
そのまま、一気にバールを上げた。
と同時に、濃い!腐乱臭が暴発。
「うへぇ~っ!」
それまで嗅いでいたレベルをはるかに越えた悪臭は、容赦なく鼻を突いてきた。

私が危惧していた通り、腐敗液は床下にまで及んでいた。
「あちゃー、ここまでイッてるかぁ!」
クッション剤は腐敗脂でグショグショ。
使っていたバールは脂まみれになり、ツルツル滑って握りにくくなった。

しかしまた、このクッション剤こそ簡単には剥がれない代物。
専用工具を使ってコツコツと削りとるしかない。
筋トレでもしているかのような、ハードな肉体作業が続いたのだった。

ここまでくると、手足は腐敗液・腐敗脂まみれ。
このまま依頼者のオフィスにでも行ったら、警察に通報されるかもしれない。

とりあえず、一通りの床上げ作業を終えて基礎コンクリートが全容を現した。

「でたなぁ~」
私の目の前には、この現場における最大の敵・真の敵がその姿を現していたのである。

つづく

 

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