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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2007年分

特殊清掃「戦う男たち」

とりあえず

歳を重ねたこの頃は、外で飲む回数もめっきり減ってきた。
自慢にもならないけど、若い頃は週に二回くらいは外で飲んで帰っていたものだ。

まぁ、「外で飲む」ったって、行きつけの立飲屋ばかりで、かなり安くあげていたんだけど。
余計な後先なんて考えず、決まって一杯目は、
「とりあえずビール!」
たしか、国産の中生ジョッキが350円だった。
ツマミもレンジでチン物がほとんどで、一品150円~350円。
どれも相応にうまかった。
顔は知ってても名前は知らない飲み仲間が何人かいたが、仕事の話はしないのが暗黙のルールで、気楽に酔えたものだった。

その昔、
「このまま飲み続けていたら、寿命を縮めることになるぞ!」
と、医者に脅されたことがある。
一時的にはダウンしたものの、それからも一向に酒がやめられない。
ヒドイ二日酔の朝は、
「しばらく飲まないぞ!」
と誓うのだが、夜になるとやはり飲みたくなる。
なんでだろう。
多分、軽度(重度?)のアル中なんだろうな。

年寄りみたいなことを言うけど、「若い頃はよかった」。
今は筋力が弱まったせいか、やたらと身体が重い。
ミドル級の特掃でもヘロヘロになることがある。
しかし、若い頃は体力もあって身体が軽かった。
今は精神力が弱まったせいか、やたらと気が重い。
ライト級の特掃でもヘナヘナになることがある。
しかし、若い頃は余計な死生観を抱えずに心が軽かった。
そんな昔が懐かしい。

「生前に墓を造っておくと長生きする」
という話を聞いたことがある。
その根拠は不明だけど、なかなか楽しい迷信だと思う。
私は墓は持っていないし、今のところ買う予定もない。
その前に、買う金がないや。

どちらにしろ、私は自分の墓が欲しいとは思わない。
できることなら、火葬だって遠慮したい。
以前にも書いたけど、私の屍はどっかの山にでも捨ててほしい(許される訳ないだろうけど)。
土の上で、虫に食われながら草花と一緒に腐り溶けていきたい。

そもそも、「腐乱死体!臭い!汚い!」などと騒いでるけど(騒いでんのは私だけ?)、土の上だったらそんなに大騒ぎしなくて済むはず。
時間をかけて、土に還っていくだけだから。
そっと放っておけばいい。
叶わぬ望みでも、私はそんな葬られ方を望んでいる。

私は、柩の中に入ったことがある。
それも何度も。
また、白い死装束を着たこともある。
こちらも何度も。
変な趣味がある訳ではなく、業務上の技術を磨くうえで必要なのである。

「生前に柩に入っておくと長生きできる」
そんな迷信、聞いたことない?
仮にそんな話があったら、私はかなり長生きできそうだ。

言うまでもなく、柩の中は狭い。
近年は、大きくなる傾向の体格に合わせて、大型の柩もある。
それでも、中は狭い。
そして、蓋を閉められると真っ暗闇。
寝返りをうつ余裕もなく(遺体は寝返りをうたないからいいんだけど)窮屈。
暗くて狭い柩に閉じ込められると、何とも言えない不安感を覚え、寂しい気分になる。
遺体本人は冷たく固まっている訳だからブルーな気分になりようがないけど、故人を想う遺族にとって火葬場での別れは断腸の思いなのだろう。

その辺のところに、死体業の一線がある。
その線をどこに引くか、これは死体業の精神疲労度にも影響してくるラインだ。

ま、生前に柩に納まることなんて、なかなかできない体験であることには間違いない。
これも役得?

死体業(特に特掃)をやっていて思うことがある。
「特掃って、やるたびに寿命が縮まっていくような気がする」
その肉体疲労もさることながら、精神疲労がハンパじゃないから。
ただの仕事として、お金の損益だけを基準に割り切ってしまえばこんなに疲れないのかもしれないけど、私には余計なことを考えてしまう悪い癖があるから精神もイッてしまうのだ。
まぁ、この癖は死ぬまで抜けなそうだ。

どう望んだって、どうあがいたって自分の寿命は自分の力でどうこうできるものではない。
だったら、若い頃のように余計なことを考えずに気楽に生きてみたい。

「とりあえず、ビール!」
と同じようなノリでね。

 

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