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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2007年分

特殊清掃「戦う男たち」

時は金なり

今となっては言わずと知れたこと?
私は、お金が大好き。
〝欲しいもの〟と言ったらまず「お金!」
人様に自慢できることはほとんどない私だけど、旺盛な金銭欲だけは、
「そんじょそこらの人には負けない!」
と自慢できる。
でも、本当に欲しいものは目に見えないものだったりもする。
健康・時間・愛etc

目に見えるものばかり追い求め、そのためだけに精神と時間を浪費する。
金を使うことと金に使われることの区別ができない暮らしに埋没する。
そんな自分を否定したり肯定したり。
考えれば考えるほど、今の自分に真に必要なものを見失っていく。

金を持つことは悪いことではない。
また、一生懸命に働いて稼ぐことは大切。
ただ、その金をどう使うかが問題。
たくさんの金があっても使う時間がなくては意味がない。
また、時間があっても使う金がなければつまらない。
金は時間の対価か、時間は金の対価か、難しいところだ。
なにはともあれ、金と時間には、適度なバランスが必要だと思う。

ある家に、生活用品の片付け依頼で呼ばれた。
「詳細は直接話したいので、とりあえず家に来て下さい」
そんな依頼に、
「ひょっとしてゴミ屋敷かな?」
と、私は思った。

後日訪問したその家は、築年数はかなり経っているものの、きれいな家だった。
玄関から、年配の夫婦が私を出迎えてくれた。
玄関に入ると、いつもの癖で鼻をクンクン。
腐乱臭はもちろん、ゴミ臭さもない。
通された家の中も特に変わった様子もなし。
〝ゴミ屋敷〟どころか、整理整頓も行き届いて、清潔そのものだった。

夫妻の要望は、
「自分達が元気なうちに余計な家財・生活用品を処分しておきたい」
「普段の生活で使わなくなったモノや不要なものを先に処分したい」
とのことだった。

だいぶ歳を重ねていた夫妻は、
「自分達がこの家で生活できる時間も残り少ない」
と考えているらしかった。
残される人にできるだけ迷惑をかけないようにする配慮と、自分達の寿命を真正面から対峙する姿勢に、老夫婦の賢明さが滲み出ていた。

「誰しも、死は避けられませんからね」
「自分の死に備えることは、とても大事なことだと思います」
私は、そう応えながら
「俺も見習いたいもんだな」
と、感心した。

夫妻は、処分するモノを細かく指示。
私は、それにもとづいて見積金額を積算していった。

「これも捨てちゃうんですか?」
「もったいなくないですか?」
いちいち確認する私に、夫妻は、
「老い先短い年寄りには、要らないものばかりなんですよ」
と言いながら、引越しさながらの多くの荷物を処分品・不用品として挙げてきた。

「若い頃は、欲しいものがたくさんあって、買えるだけ買ったもんです」
「でも、今は欲しいものは何もないですよ・・・お金さえね」
「あとは、夫婦が同じような時に逝けることを望むだけです」

後日、作業の時には、中年女性もいた。
夫妻の子供のうちの一人らしかった。

どうも、娘(中年女性)は、家財の処分に反対しているらしく、
「まだ使える物ばかり」
「せっかく買い揃えた物を捨てるなんてもったいない」
「要らないなら私がもらう」
といった具合。
そんなことだから、私はなかなか作業に取り掛かることができず、しばらく外で待たされた。

結局、当初の処分品は大幅に減らされ、作業内容も料金も急な変更を余儀なくされてしまった。

金品に執着する様は、人が「自分には残された時間はタップリある」と無意識のうちに錯覚していることの表れかもしれない。
逆を言えば、「自分に残りされた時間が短い」と覚悟すれば、金品に対する欲も弱くなるかもしれない。

では、残り時間の長短は何を基準に判断できるのだろうか・・・どう考えても、判断できることじゃない。
ただ一つ、間違いなく言えるのは、「死」が待つことのみ。

人間、死ぬときは身体一つ。
イヤ、自分の身体さえも捨てて逝かなければならない。
だったら、手にする金や物はほどほどでいいのかも。

「金銭欲に支配された人生に、一体何の意味があるのだろうか」
「最期に残るのは空虚感だけじゃないだろうか」
「金を愛し、金に使われるままの人生では終わりたくない」
そう自省する。

この老夫婦は、自分達の死期が近づいていることを知る人の価値観を教えてくれた。

人は誰しも、今日が最期の日になる可能性を秘めて生きている。
そして、私もそのことを覚えて生きたいと思う。

 

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