Home特殊清掃「戦う男たち」2007年分人始末(後編)

特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2007年分

特殊清掃「戦う男たち」

人始末(後編)

「これもお願いできませんか?」
女性が差し出した箱は、明らかに骨壺のケースだった。

「これですか・・・」
私は、それを受け取らず、床に置いてもらった。
あえて受け取らなかったのは、それによって〝引き取りを承諾した〟と思われたくなかったからだ。

私は、床に置かれたモノの四角いカバーを外してみた。
すると、想像の通り、中からは骨壺が姿を現した。

私は、壺が空であることを願いながら、念のため女性に尋ねてみた。
「中に遺骨は入ってますか?」

「ええ・・・母が・・・」
女性は、申し訳なさそうに応えた。

仏壇・位牌は迷うことなく快諾できたけど、モノが遺骨ではそういう訳にはいかなかった。

これも一つの自己矛盾。
人骨だって、本人が亡くなって燃えてしまえば、ただのカルシウム+αの塊。
公序良俗・社会習慣・関連法規からくる規制がなければ、木製品(仏壇・位牌)と同じように処分できるはず。
しかし、私はその発想には行き着かなかった。
公序良俗・社会習慣・関連法規を考慮する前に、自分の中に抵抗感を覚えたのだ。

「さすがに、遺骨は引き取れません・・・」
私は、理由を明確にすることができないまま遺骨の引き取りを断った。
そして、断った私に、表情を暗くする女性だった。

後継ぎのいない女性にとって、親の遺骨処分は仏壇・位牌処分以上の大問題。
寺院墓地の永代供養も考えたみたいだったが、その実態は時限供養であることが分かって断念。
それからずっと、遺骨をキチンと処理できる方法を模索しているところらしかった。

女性は、私が遺骨の引き取りを拒むことは予想していた。
しかし、私が位牌の引き取りをすんなり了承したので、思い切って尋いてみたのだった。
一方の私は、女性の深刻な悩みを抱えていることを考えずに〝何でも引き取りますよ!〟と軽率な態度をとっていたことに反省しきりだった。

私は、何かいいアドバイスができないか、少ない脳をフル回転させて考えた。
せっかく?死体業を長年やってきているのだから、こういう時に役に立ててこその私である。

「散骨はどうですか?!」
閃いた私は、声を上げた。
最近は、海や山へ散骨する人が増えている。
下手に遺骨を残して重荷にするよりも、その方がスッキリする。
所定の場所・手続き・費用は必要だけど、墓の購入・維持管理に比べればはるかに楽。

この女性には、散骨がお勧めだった。
私は、散骨について持っている経験・知識・情報を伝え、質問に応えた。
まるで、行楽に出掛ける計画でも話しているかのような、明るい会話を弾ませる私達だった。

それから、その遺骨がどうなったのか私は知らないけど、とにかく、女性の肩の荷が降りたことを願う。

ある日ある時。
ある中年女性から電話が入った。

「骨を洗ってもらえませんか?」
〝特殊清掃〟の依頼だったのだか、清掃の対象は遺骨だった。

「ほ、骨ですか?」
少々のことでは驚かない私でも、この時はちょっとビックリ。

女性の話はこうだった。
新しく墓を買い、古い墓から親の遺骨を出してみた。
すると、骨壺に泥水が入り、遺骨はかなり汚れていた。
骨を汚れたままにしておくのは親に申し訳ないような気がする。
だから、それをきれいにしてから、新しい墓に納めたい。

私は、生の骨を洗ったことは何度かある。
ただ、火葬後の骨を洗ったことはなかった。
この仕事、正直言うと、やりたくなかった。
いや、正確には〝やりたくない〟と言うより〝できない〟仕事だった。

焼かれた骨は、脆く壊れやすい。
しかも、長年、泥水に浸かっていたのでは、どういう状態になっているのか想像もできない。
遺骨を損壊しても責任をとれない。

「骨を洗うくらい簡単なことじゃないですか?」
まるで、他人事のように言い放つ女性に、モゴモゴと口篭る私だった。

「できません!」
とキッパリ断ることも私の自由なのだが、せっかく特掃隊を探して連絡してきてくれたことを思うと、そうもいかなかった。
あと、押しの強い女性に対して、私の気の弱さが裏目にでたことも事実。

〝あーでもない、こーでもない〟と電話口でしばらくやりとりしていると、男性の声が割り込んできた。
声の主は、女性の夫らしかった。

私の耳には、電話の向こうで夫婦がやりとりする声が聞こえてきた。
どうも夫は、女性がやろうとしていることに水を口差してきたらしく、遺骨洗浄には反対しているらしかった。

「骨がどうなったって、本人は痛くも痒くもないよ」
「人様に迷惑かけてまで、わざわざ洗う必要はない」
そう言う夫に妻は、
「それは冷た過ぎない?」
「自分の親じゃないからそんなこと言えるんだよ」
夫も反撃、
「親想いも結構だけど、その代金は俺が払うんだろ!?」

電話の向こうは、一触即発の犬も食わない状況に。
そのうち二人は熱くなってきて、とうとう喧嘩に発展。
受話器を握るだけで、二人の口論に口を挟めない私だった。

結局、遺骨を洗う件は夫婦喧嘩に掻き消され、スゴク中途半端なところで受話器を置いたのだった。

それから、その遺骨がどうなったのか私は知らないけど、とにかく、夫婦が仲直りしたことを願う。

「片付けられない現場はない」
と豪語する私でも、人の内面を片付けるのは容易ではない。
ま、自分の中身さえ片付けられない男が、人様のそれをできるはずもないか。

人って、ホントに始末におえない生き物だね。

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