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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2007年分

特殊清掃「戦う男たち」

生きてたら

死体業に入って15年。
数え切れない何人もの死と遭遇し、色んなかたちの死を見てきた。
色んな人(故人)達が、私の人生を通り過ぎていった。
その中には、私より歳の若い人もたくさんいた。

「もっといい仕事はなかったのだろうか」
そう過去の自分を振り返ってみることもあるけど、その全ては誰のせいにできるものではない。

自分に与えられた道、自分で選んだ道、何もかも、生きているから味わえる醍醐味。

ある不動産会社から、特掃の依頼が入った。
出向いた現場は、1Rマンションの一室。
オートロックの入口には監視カメラもついており、家賃の高そうな建物だった。

例によって早めに現場に到着した私は、約束の時間がくるまで外で小休止。
しばらく待っていると、電話をしてきた不動産会社のスタッフがやって来た。
現れたのはスーツ姿の三人の男性。

「大の男が三人も・・・それだけヘビーな現場だということか?」
「それとも、一人じゃ心細いのかな?」
「ひょっとして、特掃野郎が珍しくて見物に来たのかな?」
孤高?の私は、そんな風に思った。

「ご苦労様です」
「どうも」
「今日中に処理できますか?」
「現場を見てみないと分かりませんね・・・あと、費用の問題もありますし」
「そうですか・・・ま、とりあえず中を・・・」

私達は、オートロックをくぐり抜け、エレベーターを目的の階に進めた。

現場のある階に到着し、エレベーターの扉が開いた。
そして、私は、すぐさま鼻でその辺の空気を浅く吸った。

特掃現場の場合、マンションなアパートの共用廊下に例のニオイが漂っていることも少なくない。
しかし、幸いなことに、この現場にはそれはなかった。

「あそこなんです」
と不動産会社の男性が指差す先、廊下を少し進んだところの玄関前に汚染があった。

「これですかぁ」
私は、汚染箇所に近づき、床にしゃがみ込んだ。

「これは血ですね」
床を汚していたのは、腐敗液というより血液だった。
それが、玄関ドアの下から流れだし、ワインレッドの乾いた帯をつくっていた。

「自殺ですか?」
相手が遺族だったら、そこまでストレートには尋けないのだが、他人(不動産会社)なので率直に尋いてみた。

不動産会社は自殺を否定。
しかし、それは警察の見解であって、不動産会社自身も故人の自殺を疑っているようでもあった。

「とりあえず、中も見てみます」
玄関ドアを開けた私は、身体はそのままに首だけ中に入れて上下左右をグルグル見回して観察した。
自殺を匂わせる痕跡がないか、探したのだ。

「首を吊ったような跡もないし・・・手首を切ったような血シブキもなし・・・やっぱ、警察の言う通りだろうな」
私は、抑えられない野次馬根性に支配されていた。

しばらくすると、遺族がやって来た。
故人の父親と兄の二人。
遠方の実家から駆けつけて来たようだった。

父親は、気が動転していることは誰の目にも明らかで、私が話すことに対しても
「は、はい・・・」
としか言わず。
また、兄の方は困惑を隠せない表情で終始無言。
目を泳がせるばかりだった。
二人とも、故人の死を悲しむよりも、故人が亡くなってしまった現実と向き合えないでいるようにみえた。

亡くなったのは、20代前半の女性。
田舎から都会にでてきて、普通に独り暮しをしていたようだった。
特に、体調を崩していた様子もなく、仕事も元気にやっていたらしい。
発見の日は、玄関から血が流れだしているのを同じマンションの住人が発見して110番通報。

〝不幸中の幸い〟と言っていいものか迷うところだが・・・倒れた場所が玄関で出血が多かったことが幸いし、早期発見につながったものと思われた。
〝腐乱死体で発見!〟となったら、問題は何倍にも膨れ上がり、収拾がつかなくなっていたところだ。

死因については、自殺ではないことは断定したものの、本当のところはハッキリしていないようだった。
貧血か何かで気絶し、倒れたときの打ち所が悪かったのだろうか。
はたまた、〝急性心不全〟〝心筋梗塞〟とかが死因で、外傷は直接の死因ではなかったのかもしれない。

結局、特掃作業はその場でやることになった。
必要な道具を揃えて、私は作業に取り掛かった。

血は、乾いているときには特段のニオイがなくても、作業で水気を与えるて生臭いニオイが蘇ってくる。
真っ赤に染まる手元から立ち上ってくる血のニオイを嗅ぎながら、若い故人の突然の死を受け止める私だった。

一般の人に比べると〝命・生・死etc〟を見つめる機会の多い私。
そんな私でも、日常は、死を他人事のように錯覚して生活している。

死は老人・弱者だけのものではない。
人間が死ぬことは、権利?義務?、やはり宿命?
いつでも、どこでも、どんなかたちでも、必ずやってくる。

「あの時の故人、生きてたら○才になっているんだなぁ・・・」
今までに関わってきた若い故人達を想いながら、人生と生死の妙を噛み締める私である。

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