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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2007年分

特殊清掃「戦う男たち」

未知の道

「なかなかいい商売を見つけたもんだな」
自宅に招いた私に、依頼者の男性は唐突な言葉を浴びせた。

「〝商売〟と言われれば〝商売〟かもしれませんけど、〝いい商売〟かどうかは分かりません」
私は、男性にそう切り返した。

「そうは言ったって、いい金もらってんだろ?」
男性は、私の心象などお構いなしで言葉を続けた。

「同年代の平均所得は下回ってますよ」
私は、ホントのことを言った。

「またまた~、そんなことないだろ?」
男性は、〝トボけんなよ〟と言いたげで納得してない様子。

「ホントですよ・・・嘘をついたって仕方がないですから」
私は、苦笑いで話題が変わるのを待つしかなかった。

訪問した依頼者宅は、結構な豪邸。
庭には高級外車もあった。
通された応接間は、いい言い方をするとゴージャス、悪い言い方をするとケバケバ。
依頼者の男性も、買うと高そうだけど〝上品〟とは言えない服装。
その経済力が、人間としての自信に直結していることはすぐに分かった。

なにも、この仕事に限ったことではないけど、世の中には色んな人がいる。
中には、
「苦手なタイプだな」
「変わった人だな」
と思うような人も。
そう言う私も、〝変人〟の一人として数えられているかもしれないけどね。

そんな人(依頼者)の中には、対応に手を焼く人がいる。
この時の男性もそうだった。
私より年上とはいえ、初対面からタメ口+乱暴なモノ言い。
その上、耳触りのよくないネタもお構いなしで。

blogの隊長は、私の一部・人格の一面の現れでしかない。
現実の私は、とても人様から称賛されるべき人間ではなく・・・ただの凡人・愚人・罪人なのだ。
だから、現実には、人から変人扱いされたり奇異に思われたり、時には見下されることも少なくない。
そして、そんなことにはもう慣れてしまっている私は、このときも気分を害することはなかったのだが、男性に対する策を定めるのに苦慮した。

「とりあえず、現場に行きましょうか」
いつまでも終わらない雑談に嫌気がさしてきた私は、半ば強引に話を切った。

男性は自分の高級車では現場に行きたくなかったようで、私の車に同乗。
移動の車中でも、男性はストレートなキャラクターでグイグイ押してきた。

男性は、親の代から続くとある会社の社長。
事業もそこそこ成長し、結構羽振りのいい生活をしているらしかった。
特に、事業を成功させたことと、女性にモテることへの自負心が強く、その自慢話が炸裂。

「商売も女も、やってみなけりゃホントのところは分からねぇ・・・未知への期待感がたまんねぇんだよな」
そんな男性に対して、自分の耳のキャパシティーが心配になる私だった。

確かに、私が見ても男性は〝モテないタイプの男〟ではなかった。
〝遊び人〟というか〝遊び上手〟といった感じで。
ただ、
「世の女性達は、男性が好きなんじゃなくて、男性が持ってるお金が好きなんじゃないの?」
とも思った。
もちろん、そんなことは口にしてないけど。

「自慢話に付き合うのも仕事のうち」
そう考えた私は、劇団員バリのオーバーリアクションで、聞き上手を演じた。

亡くなったのは、男性の叔父。
昔は、男性と一緒に会社をやっていたのだが、先代(男性の父親)が亡くなったことを機に、人間関係(組織)のバランスが崩壊。
そんな状況下、故人は会社を出て同業種での独立開業。
しかし、そこから男性と故人の関係は一気に悪化。
商売敵となった双方は競争と潰し合いを激化させ、結果、故人の会社は事業が軌道に乗る前にあえなく倒産。
それからというもの、故人は酒におぼれ妻子とも別れて、転落の一途を辿ったのであった。
そして・・・最期はわびしい借家で孤独死。

「まさか、こんなことになるなんてなぁ・・・」
威勢のよかった男性も、故人の晩年と寂しい死を語るときだけは声を沈ませた。
助手席に乗る男性の横顔は、男性が故人の末路に自責の念を抱いていることを伺わせた。

「先のことは誰にも分からないことですよ」
「人生は、自分の力ではどうにもならないことだらけですけど、自分の道は全て自分の責任で歩くもの・・・誰のせいでもないですよ」
と、私は無言の質問に応えた。

「そう・・・だよな・・・」
男性は、何かを諦めたように微笑んだ。

そんな話をしながら車を走らせることしばし。
私にとって、男性のキャラは憎めないものへと変化していた。

「この家なんだよ」
男性に道案内されて到着した家は、古くて小さな一軒家だった。

「中は不衛生なはずなんで、私一人で見てきますよ」
男性の気持ちを察して、私は自分一人で入ることを提案。
マスクと手袋を装着しながら、深呼吸をした。

「アンタ、なかなかいい男だな・・・女にモテんだろ」
「あとは、ヨロシク頼むな」
男性は、前のキャラクターを取り戻し、汚部屋に行く私を見送ってくれた。

人に褒められて悪い気はしない。
人に頼られて引くわけにはいかない。
男性のお世辞に乗せられた私は、張り切って未知への玄関を開けるのだった。

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