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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2007年分

特殊清掃「戦う男たち」

密室(番外編)

日常の予定にしても人生の計画にしても、先々のことはなかなか自分の思い通りにはなってくれないもの。
予定通りに事が進まなかったり進路変更を余儀なくされたりする現実は、人生に常に付き纏う。
「人生は、思い通りにならないことの方が多い」と、開き直った方がいいくらいかもしれない。

しかし、先が見えないことは悪いことばかりではない。
例えば、自分の死亡日時が予めわかっていたら、何とも生きにくい。
充実した時間を過ごせるかもしれないけど、短絡的になる危険性も高い。
極端な自己中心的エゴイストとなって、生きた跡を汚したまま死んでいかなければならなくなるかもしれない。

「先がわからないから不安」
されど、
「先がわからないから生きていける」
人生は、予定通りにいかないから面白いのかもしれない。

ちょっと汚い話で恐縮なのだが・・・
数日前の明け方、私は強い吐き気に襲われて目が醒めた。
前夜の夕食が消化しきれていない感じの不快感があり、どうにも寝ていられなくなったのだ。
それからしばらく、荒い息をしながらゲップを繰り返していた。
そして、そのうちに下腹が張ってきた。
上より先に下にきたのだ。

「食アタリかなぁ・・・」
過去にも何度となく食アタリに遭ったことがある私は、自分を襲う症状から真っ先に食べ物が原因ではないかと疑った。
そして、前夜に食べたものを一つ一つ思い浮かべた。

私は元来、食べ物の〝賞味期限〟〝消費期限〟等はあまり気にしない性質。
生モノでなければ、期限を過ぎたものでも平気で食べる。
だから、過去の体調不良も、それが原因だったこともあったかもしれない。

「食べた物に変なモノはなかったなぁ・・・」
しかし、この時は、思い出してみてもコレといって引っ掛かるものはなく、食べたモノに原因を見つけられなかった私は、その体調不良を少し不気味に思った。

仕事は体調を考慮してくれない。
体調が良くても悪くても、仕事は待ってくれない。
その日も仕事の予定は入っていた。
幸い、特掃撤去作業ではなく片付けた後の臭気・衛生調査だったので、私は予定通り仕事に行くことにした。

ちなみに、過去に体調不良で仕事を休んだという記憶はない。
しんどい思いをしながらも仕事をした記憶は数多いけど。
別に、療養休暇が許されないとか認められないということはないはずなのだが、私には少々の無理は押しても仕事をする習慣が身についている。
また、死体業にはそういう文化があるのだ。
ま、これも仕事に応じて定められる宿命なのだろう。

かなり身体はだるかったものの、私はいつも通り現場に向かって車を走らせた。
そんな中、出し切った感のある下の方は落ち着いていたのだが、不快感はそのうち上の方にきた。

「ゲプ・・・ヤバイなぁ・・・」
吐き気をもよおしてきた私は、車中にあったレジ袋を手に取って口元に近づけ、胃の暴発に備えた。
その吐き気は、我慢すればできそうなレベル。
しかし、その状態のままで仕事に行くことは到底できなかった。

「すっきり吐いた方がよさそうだな」
走っていたのは高速道路だったので、私は次のPAに寄ってトイレに行くことにした。

人間の心理は面白いもので、〝我慢する→吐く〟と考えを変えると気持ちが緩みだす。
すると、吐き気が倍増して、それまで我慢できていたものができなくなってくる。

「空いてればいいけど・・・」
PAに車を入れトイレに向かった私だったが、残念なことに朝のトイレ(大)は混雑して空いているところが一つもなかった。

「待つしかないな・・・」
私は、待つ間、違うことを考えて気を紛らわそうとしたした。
しかし、〝吐くイメージ〟を持ってしまった脳はなかなかそれを忘れさせてくれず、私の吐き気は段々のその強さを増していくばかりだった。

「や、やばくなってきた・・・」
私の心臓と胃は鼓動を増し、次第に冷静さを失っていった。

「あそこで吐いちゃおうかな・・・」
手洗場のシンクを見て、そんな考えが頭に浮かんだ。

「イヤイヤ!そんなのダメに決まってるだろ!」
そんな所で吐くのは、回りの人に対してあまりに無礼。

「じきにトイレは空くはず・・・辛抱!辛抱!」
私は、吐き気に負けそうになった自分を励まして、ひたすらトイレが空くのを待つ私だった。

このblogをスタートしたのは一昨年の五月。
現在までに書き綴ったものは300編を越えているが(正確な数は自分でも把握していない)、私の本業はコレじゃないので、
「いつまでも書き続けられるもんじゃないよな」
と思いながら書いている。
自分のペースでボチボチやっている次第。

いつも、一つ書き終えると、
「次は何を書こうかなぁ」
と、ボケーッと考える。
そして、頭に適当に思い浮かんだものをケータイに打っていき文字にしていくのだ。

前回の「密室(後編)」は、アレはアレで終わりにするつもりだった。
しかし、公開・非公開コメントを通じて続編を求める意見が多く寄せられていることを知り、
「だったら、続きを書いた方がいいのかな」
と、思うようになってきた。
しかし、もともと書くつもりがなかったものなので、現場を思い出しながら頭をリセットしなければならない。
ま、こうしてもったいつける程の面白さがないことは明白なので、過度の期待は禁物だ。

何はともあれ、blogに反響をもらえることはありがたいこと。
そして、それによる予定変更はおおいに歓迎できる。

「この体調じゃ、今日の仕事は予定通りにこなせないかもな・・・」
やっとのことで入った臭い密室から、私は、なかなか出られなくなったのだった。

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