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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2007年分

特殊清掃「戦う男たち」

ねこみ

年の瀬も押し迫り、寒さも厳しさを増してきた。
私が起床する時は、いつも外は暗く極寒。
布団から出るのがツラくてたまらない。
更に、私は重い朝欝症を抱えているので、朝の起床には一層ツラいものながある。

この時期は、外で酒を飲む機会が増える人が多いと思う。
こんな仕事をしている私でもそれなりに付き合いがあるので、12月に入ってから週に1~2回は外で飲んでいる。

若い頃は外で飲むのが大好きだったので、忘年会などにはイソイソと出掛けていた。
そして、無茶飲みしてはバカ騒ぎをしていた。
それが楽しかった。
しかし、ここ4~5年は外での飲み会に気がすすまなくなってきている。
気も身体も懐も疲れるせいだろう。
ネクラな私は、今は、自宅で静かに飲むのが断然よくなっている。
安く飲めるし、疲れたらそのまま寝ることもできるから極めて楽チンなのだ。

以前のblogにも書いた通り、秋からにごり酒を飲んでいる。
しかも、例年にはないくらいにたくさん。
blogに書いたことで、自分で自分の酒癖を刺激してしまったのかもしれない。

今、一番飲みたいのはN県S酒造K酒なのだが、この辺の店には置いてないので、比較的どこにでもあるG県M酒造S酒ばかり飲んでいる。
(管理人がインターネット通販で買うことを勧めてくれたが、クレジットカード決済に抵抗があるので却下した。)
もちろん、これもなかなかの美味。
抑えて飲んでも一升が一週間ももたず、空き瓶ばかりが増えている。
にごり酒の消費を抑えるため、たいして飲みたくもないビールやチューハイを先に飲むのだか、やはりこれらは暑い季節に旨いものなので、この時季の日本酒には太刀打ちできない。

「家の裏にあるネコの死骸を片付けてほしいんですけど」
ある日の朝、そんな電話が入った。
前の晩に深酒をしていた私は、頭痛と倦怠感を抱え、睡眠不足の状態だった。
そんな中での電話だったため、私はいまいち気分がのらなかった。
しかも、動物となると尚更。
相手が人間の腐乱死体だと、責任感・使命感に似た特掃魂が沸き立ってくるのだが(変人?)、ネコだったためいまいち燃えてこなかった。
それでも依頼者は困っているようだったので、私は急いで現場に向かうこととなった。

現場は古い町並みに建つ一軒家。
私は、家の人に案内されて裏手に回った。
その場所は、普段は人が立ち入るようなところではなかったため、依頼者も異臭によってやっと気づいたらしかった。
確かに、家の裏には不快なニオイが漂っており、そこから死骸の腐乱がかなり進行していることが伺えた。

「あそこなんです」
依頼者が指差す先に黒い盛り上がりがあった。
死骸の上には黒いビニール袋が掛けられていた。

「〝クサイ〟ったって所詮はネコだ」
私は、プロっぽく振る舞いたかったため、マスクも着けず死骸に近づいた。
そして、不用意に黒いビニール袋を剥がした。

「グ!グハッ!くせーっ!」
ビニールの下からはグロテスクなネコの死骸が出現。
同時に、強烈な悪臭パンチ!
私は、視覚と臭覚へのダブル攻撃に面食らってっしまった。

「ダ、ダメだこりゃ・・・やっぱ、マスクなしじゃ無理だ」
ネコ死骸の腐乱臭なんて何度も嗅いだことのあった私だが、そのニオイは一段と強烈でタジタジに。
ナメてかかった自分を恥じながら、一時退却。
もともと体調がよくなかったこともあいまって、吐き気まで襲ってきた。

「だ、大丈夫ですか?、あ、あとはお願いしますね・・・終わったら声を掛けて下さい」
私の弱腰に依頼者も動揺。
顔を強張らせて逃げるように家の中に避難していった。

私は、現場から離れたところで小休止し、波打つ気持ちを静めた。
そして、専用マスク・その他の装備を整えて再び現場に戻った。

「まったく!こんなとこで寝込みやがって!」
もともとが黒猫だったのかどうかは不明ながら、その時点の死骸は全身が不気味に黒光りしていた。
そして、ネコとしての形状は維持しながらも、不自然に変形。
腐敗はかなり進行しているようだった。

「さてさて、これをどうやって回収するかな・・・」
死骸を手で持ち上げることを想像すると、ゾゾゾゾゾ・・・と鳥肌が立った。
そして、そのやり方は自分でも無理であることがすぐにわかった。
私は、予め用意していた小鍬とシャベルを使うことにした。

「慎重にやるより、一気にやっつけてしまった方がいいな」
私は、回収を一発で決めるべく、頭の中で何度もシュミレーションを反復。
そして、実際に何度か手を動かしてみて、イメージトレーニングも行った。

「いっちょ、やってみるか!」
意を決した私は、マスクの下で深呼吸。
片手のシャベルを死骸の背中下に 差込み、片手の小鍬を死骸の腹に当てた。
そして、目を閉じると同時に一気に手を引いた。

「ん?手応えがない・・・」
小鍬の方には想定していたような手応えを感じず、シャベルの方にも重量感はなかった。

「あれ?何か変だぞ」
私は、片目だけを恐る恐る開けてみた。

「オ゛ァーッ!」
すると、目の前の死骸はは腹の皮が破れて〝くの字〟に湾曲。
更に、驚くべきことに、腹の中にはドンブリ一杯はあろうかという程のウジがギュウギュウ。
そして、それが不気味にムニョムニョ・・・これには私も仰天!思わず跳び上がってしまった。

「この仕事、引き受けるんじゃなかったかなぁ・・・」
ドツボにハマッた私は、自分の運命を悲嘆。
それでも、ウジの逃亡は阻止しなくてはいけない私は、早急に次の手を打つ必要があった。

「手を使うしかないか・・・」
これ以上小鍬を使うと死骸がバラバラになるし、モタモタしているとウジがどんどん逃げていく。
悠長なことを言ってられない状況に陥った私に残された手段は限られていた・・・と言うより、手段は一つしかなかった。
私は、自らの手で死骸をビニール袋に掻き込む荒業にでることにした。

「ア゛・・・エ゛・・・オ゛・・・」
その作業はまさに過酷。
私は、悲鳴とも溜息ともつかない唸声をたてた。
「俺の手って、汚い仕事ばかりやらされて可哀相なヤツだ・・・」
自分の手がやっていることはとても直視できたものではなく、私は目を閉じて手探りで死骸を袋に入れた。

「片付きました?よかったぁ!ありがとうございます」
作業の完了を、依頼者はとても喜んでくれた。
いつもなら、何らかの達成感や満足感を得られるのだが、その時の私は疲労感や憔悴感の方が強く、依頼者と喜びを共有することができなかった。

その日は、夜になっても体調が戻らず元気がでなかった。
本来は、分解ネコやウジ丼を経験したくらいで食欲が減退するほどヤワじゃないのに、食事もロクに喉を通らず珍しく酒も欲しくなかった。

「いつまでこんな仕事をしてかなきゃならないんだろう・・・それでも、身体を壊して寝込むよりマシか・・・」
起きていると余計なことばかり考えそうだったので、その夜は早々と布団に潜り込んだ。
そして、朝までの短い時間、つかの間の休息をとるのだった。

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