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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2008年分

特殊清掃「戦う男たち」

秋、色々・・・

朝晩の冷気に、ハッキリと秋が感じられるようになってきた今日この頃。
例の体調不良を除けば、今年の夏は目立った故障もなく無事に過ごすことができ、一息ついている。
過酷な夏の反動があるせいか、秋は私にとってホッとできる季節だ。

それにしても、今年は秋の到来が早い気がする。
気のせいだろうか・・・
例年だと、9月に入っても猛暑が続くのに、今年は厳しい残暑も続かず、既に随分と過ごしやすくなっている。

しかし、秋は全ての人に歓迎される季節ではないみたい。
「何となく寂しい感じがする」
「意味もなく物悲しい」
そんな感じで、秋を苦手とする人は意外と多いようだ。

それは、秋という季節には、人生の悲哀を感じさせる何かがあるからだろうか・・・
冬と死を重ね合わせて、本能的に人生の晩年を連想してしまうからだろうか・・・
確かに、人生が終わりに近づいていることを想うと、独特の切なさや寂しさを感じて日常の価値観に変化がもたらされる。
そうして、季節の移り変わりは、我々に大切な何かを教えてくれているのかもしれない。

そんな秋、私にとって難点がないわけではない。
例年通り、冬場の低空飛行に向かって、精神の機首が下がり始めてきたのだ。
突発的な乱気流にでも巻き込まれないかぎり急降下することはないのだが、気の持ちようとは関係なく下降してきていることは確実に自覚できている。
毎年のことなので慣れてはいるけど、低空飛行なら低空飛行なりに安定飛行でいきたいものだ。

何はともあれ、〝秋〟と言えば・・・

「芸術の秋」
今は、芸術には縁(えん)も縁(ゆかり)もない生き方をしているけど、大人になる前は図画工作を得意?としていた私。
上手い下手は別にしても、特に絵を描くことが好きだった。
10代の頃は、知り合いの会社のポスターを描いたりして、ちょっとした小遣いを獲ていたくらい。
どちらにしろ、〝安定〟とは無縁な人生を歩むことになるんだったら、思い切ってそっちの道にチャレンジしてみてもよかったかも?

「収穫の秋」
主食である米を筆頭に、秋は主だった農作物の収穫時期。
一年間、自然を相手に汗と泥にまみれた成果が実る季節だ。
その恩恵は、農家だけのものではない。
代価を払うとは言え、我々だってその糧と美味に預かれる。
作ってくれる人・運んでくれる人・売ってくれる人がいてこそありつける収穫だ。感謝。感謝。
しかし、至る所で偽装が発覚している昨今、何をどう信用していいものやら・・・残念である。

「スポーツの秋」
日々の肉体労働がそれなりの運動になっているだろうけど、もともと、スポーツには縁のない私。
草野球やゴルフ等、スポーツを趣味にしている人を羨ましく思う。
しかし、私にそんなことをする体力も時間もない・・・
いや、ないのは体力でも時間でもなく、〝やる気〟〝やりたい気持ち〟なのだろう。
前向きなことについては何事に対しても、できない理由ばかりを並べ立てるのが私の悪い癖。
脳ミソぐらいは運動させて、柔らかくしときたいものだ。

「行楽の秋」
たまには、ひなびた温泉旅館にでも逗留して、露天風呂にでも浸かりながらのんびり過ごしたいもの。
しかし、まとまった休暇をとるのは不可能。
また、こうも物価が上がっては財布の紐も縮こまって旅行どころではない。
入浴剤でも買ってきて、空想温泉でも楽しもうか。
また、この人生旅行も、考え方によってはなかなか楽しめる。
この旅もじきに終わることを想えば、充分な行楽感を味わえるものである。

「読書の秋」
文字を読むことが滅法苦手な私は、本を読むなんてことは滅多にない。
新聞も雑誌も漫画も何も読まない。
活字を読んでいると、すぐに眠くなる。
それでも、日常生活に困ったことはない。
それより、要らぬ情報に気を取られている間に心の声を聞き逃さすことがないよう気をつけたい。
自分の心は、自分で思っている以上に弱く不安定なものだから。

「食欲の秋」
もともと食い意地の張っている私。
食欲も旺盛だし、大食いでもある。
暴飲暴食をやらせたら、いい線を行く。
しかし、口を開けて〝頂戴!頂戴!〟するメタ坊を甘やかす訳にはいかない。
身体の健康がないとメタ坊だって生きていけないのに、ヤツは食欲に走るばかりで身体の健康なんて眼中にない。
まったく愚かな相棒だ・・・
道連れにされないよう、自制が必要だ。

ある年の初秋、一人の若者が孤独死。
故人は、翌春の就職も内定していた大学四年生。
都内の大学に通うため、実家を離れて一人暮らしをしていた。

当初、自殺が疑われたが、警察の検案は自然死。
死後経過は、一週間から10日。
残暑の折、それは肉体が溶けるには充分な時間だった。

現場は、小さな老朽アパート。
その造りは、今では珍しくなった、風呂なし・共同玄関・共同トイレ。
立地もよくはなく、車では入っていけないような狭く入り組んだ路地の奥に建っていた。

依頼者は、アパートの大家である初老の女性。
未だかつて経験したことのない事態に、ヒドく困惑していた。

異変を知らせたのは近所の住人。
今までに嗅いだこともないような異臭が、このアパートから漂いだしたかと思ったら、現場の部屋の窓に無数の黒点が発生。
そのニオイは日に日に濃くなり、また黒点は日に日に増加。
その奇妙な現象に不気味なものを感じた住人は、古くからの顔見知りだった大家に連絡。
現場に駆けつけ大家は、窓を外から見ただけで悪い勘が働き、すぐに警察に通報したのだった。

「このアパートは、この子(故人)を最後に終わりにするつもりだったんです」
「そうなんですか・・・」
「だから、部屋が空いても新しい人を入れないでいたんです」
「はい・・・」
「でも、最後の人がこんなことになるなんてねぇ・・・」
「・・・」
「こんな年になっても、初めて経験することってあるものなんですね・・・」
「・・・」
アパートに他の住人がおらず、故人を最後に取り壊されることになっていたことは、大家・遺族双方にとってまさに不幸中の幸い。
女性は、アパートの最期と故人の死に妙な因果を感じたようで、感慨深そうに建物を見上げた。

「かかる費用は、田舎の親御さんが払ってくれることになってますので・・・」
「わかりました」
「でも、どうせ壊すだけのアパートですから、最低限のことだけやって下されば結構ですので」
「はい・・・」
「親御さんも、楽じゃないでしょうから・・・少しでも安くお願いしますね」
「承知しました」
「それにしても、親御さんが気の毒ですよ・・・」
「・・・」
「私にもいい年をした息子がいますけど、先に死なれることなんて考えるのも恐ろしいですよ」
女性は、自分の災難をよそに両親に深い同情を寄せていた。
私も、話を聞いて同じような気持ちになった。

「ところで、中はどんな状態でしょうか」
「さぁ・・・見てないのでわかりません」
「そうですか・・・これから見せていただきますけど、一緒に御覧になります?」
「え!?無理!無理!見れません!見れません!」
「・・・」
「見なくてもいいですよね!?」
私がしつこく誘ったわけでもないのに、女性は同行を頑なに拒否。
女性が顔に浮かべる恐怖感は、腐乱死体に対するものではなく、〝子供の死〟に対するもののように感じられた。

「死は防げなかったとしても、腐乱は防げなかったのだろうか・・・」
私には、いくつかの疑念が沸々。
学校・アルバイト先・友人・知人etc・・・
これが現代社会の実態か・・・小さな部屋に広がる凄惨な腐乱痕と学生だった故人を取り巻いていたであろう人間関係がマッチせず、何とも納得できないものを感じた。

結局、すべてのことは大家を介して進められ、最後まで、田舎の両親と私が顔合わせることはなかった。
ただ、全てが片付いた後の日に、父親が電話をくれ、私の労をねぎらいながら礼を言ってくれた。

一人前の大人にしようと精魂込めて育てた息子。
都会の大学に入れ、あとは社会に巣立つのを待つばかりだった。
その命が、いきなり消えてなくなった。
残ったのは、変わり果てた肉体と部屋だけ。
両親は、まさか、こんなことが起こるなんて、微塵も心配していなかっただろう・・・
電話では社交辞令的な挨拶を交わしただけだったが、父親が抱える悲哀はそのまま涼秋となって私に届いたのだった。

あの秋。
若かった故人は、突然に世を去った。
余生が長いことを信じて疑わず、将来に夢と希望と計画を持ったまま・・・

この秋、私に死ぬ予定はない。
しかし、生きて冬を迎えられる保証・・・死なない保証はどこにもない・・・
言うまでもなく、死は、老人や病人だけのものではないから。

〝人生二度なし〟〝今日は今日だけ〟
「〝今を生きる〟ってどういうことだろう・・・」
秋は、私にそんなことを考えさせる季節でもある。

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