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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2009年分

特殊清掃「戦う男たち」

おにぎり(前編)

このところ、体調が優れない話を毎回のように続けているが、今日現在でいうと、少しずつ持ち直してきている。
口に入る食べ物と酒の量が増えてきたので、それがわかる。

しかし、年柄年中、愚痴や弱音を吐き続けている私。
憂鬱・疲労・倦怠・不眠・食欲不振・拒食・二日酔etc・・・
この類のことは、私に限らず多くの人も抱えているだろうに・・・
読んでくれる方にとって、いい加減、目障りになっているのではないだろうか。

私は、〝器が小さい〟というか〝度量が少ない〟というか・・・人としてのキャパが小さい。
だから、抱える苦悩をいちいち吐き出していかないと、身が保たないのだろう。
ま、自分を分析して解釈の仕方を変えても、自身の性質そのものが変わる訳でなし。
読んでくれる方の目汚しになることを承知しつつも、このまま、お付き合いいただくほかあるまい。

前回書いたように、最近、私の主食の一つになっている〝おにぎり〟。
(〝おにぎり〟と〝おむすび〟の違いがわからないけど、本編では、私が聞き馴染み・言い馴染んでいる「おにぎり」を使うことにする。)

食欲不振・拒食状態であっても、2~3個くらいなら難なく完食。
また、車であちこち動き回っていることが多い私は、運転しながらでも食べられるので重宝。
結果、一日の食事を、すべてコンビニおにぎりで済ませるような日もでてきている。

私が一度に買う数は、ほんの2~3個。
これが、このところの私の一食分。
元来の大食いがウソのようだ。

一口に〝コンビニおにぎり〟と言っても、その種類は多い。
コンビニ自体の種類も多い上、一つの店だけで何種類もあるから。
そして、よくできたものもあれば、そうでないものもある。

某大手チェーンのおにぎりは、やわらかめに握ってあって具も多い。
片や、別の大手チェーンの製品は、固く握られていて具も少ない。
頭のいい人達が商品開発に取り組んでいる大手コンビニでも、この差は歴然。
まぁ、これは、商品開発部門の問題ではなく、製造工場の問題なのかもしれないけど・・・
事情がどうあれ、やはり、握りはやわらかくて具は多めが私の好み。

好んで、よく買うのは梅。
食欲を刺激してくれそうだし、身体にもよさそうだから。
そう言えば、最近、梅干一個を種ごと御飯に埋めているようなおにぎりに出会わなくなった。
ちょっと前は、コンビニにも、そんな梅おにぎりがあったように思うのだが・・・
食べやすさ・作りやすさ・コスト等に不利な面が多く、淘汰されてしまったのだろうか・・・
今は、ほとんどが練り梅。
これはこれで悪くはないのだが、やっぱ、梅は粒の方がウメー(・・・)。

朝に食べたおにぎりは、とっくに胃から消えていたある日の正午前、〝昼は何を食べようかなぁ・・・〟なんて暢気なことを考えているところに、電話が入った。

「もしもし・・・」
「あのー・・・仕事の依頼ではないんですけど、ちょっと教えていただきたいことがあるんです・・・」
声の主は、女性。
自分では消化しえない不安を抱え、第三者の助言が欲しくて電話をしてきたようだった。

「どういった御用件ですか?」
「隣の部屋で、人が亡くなったらしいんですが・・・」
始めは〝何の相談だろう・・・〟と引き気味の私だったが、〝人が亡くなった〟と聞いた途端に目を見開き・耳もダンボに。
苦笑いするしかない悲しい性(サガ)を、自分に感じた。

「それで?」
「〝死臭〟って言うんですか?・・・うちまでそのニオイがしてきまして・・・」
私の中では、〝死臭〟と〝腐乱死体臭〟は別物。
しかし、それは〝おにぎり〟と〝おむすび〟くらいの違いしかなさそうだし、そんなことは女性も眼中になさそうだったので、サラリと聞き流した。

「そうなって、どのくらい経ちます?」
「もお、10日くらいになります・・・」
不動産会社に連絡したのは、四日前。
ただ、ニオイは、その更に一週間くらい前から、女性宅に漂っていた。

「かなりニオイますか?」
「嗅いだことのないニオイですけど、誰が嗅いでもクサいと思いますよ!」
腐乱死体現場に遭遇すると、ショックのあまり、〝感覚的なニオイ〟ではなく〝精神的なニオイ〟にやっつけられてしまう人が少なくない。
私は、その辺の錯誤がないか、女性に確かめた。

「それは、キツイですねぇ・・・」
「えぇ・・・ちょっとツラくて・・・」
どんな異臭でも、嗅がせ続けられるのはたまらない。
ましてや、それは、腐乱死体臭なものだから、肉体的な問題にとどまらず精神的にも滅入ってきているようだった。

「とにかく、精神的にまいりますよね」
「それもそうですが、身体への影響が心配で・・・」
腐乱死体臭は、精神を蝕むもの。
しかし、女性は、それよりも、悪臭自体が、ウィルス等の身体に悪いものをまき散らしていないかを心配していた。

「空気感染するものは、いくつもありますけど、〝死臭〟自体が病原体になるなんてこと聞いたことないですよ」
「・・・なら、いいんですけど・・・」
仮に、そんなことがあるとしたら、〝ウ○コ男〟がこうしてピンピン?してられるはずもなく・・・(頭は、壊れてるけど・・・)
私は、身をもって、それを証した。

「部屋の位置関係は、どんな風ですか?」
「アパートの一階で、臭ってるのは一番端の部屋です」
現場は、木造アパートの一階。
悪臭を放っている部屋は一階の端部屋で、隣に位置するのは女性宅だけだった。

「上の部屋は?」
「空いてるみたいなんです・・・」
女性宅がそれだけクサければ、上の部屋もニオっている可能性が大。
ただ、上の部屋の状態を知ろうにも、そこには誰も住んでいなかった。

「第一発見者は?」
「不動産屋に連絡したのは私です・・・見てはいませんけど・・・」
普段はたまることがなかった新聞が、何日分も玄関前にたまるように。
そのうち、窓の内側に黒点がチラホラと発生。
日に日に増殖するハエと漂い始めた悪臭に異変を感じた女性は、不動産会社に対処を要請した。

「人が亡くなってたとしたら、警察が来たはずですけど・・・」
「その辺のことは、知らないんです・・・」
女性が不動産会社に連絡したのは、日中、自分の職場から。
したがって、それ以降にアパートで起こった出来事を知る由もなく・・・
帰宅した時のアパートに、朝と変わったところはなく、異臭だけが静かに漂っていた。

「どんな方でした?」
「年配の男の人・・・ごく普通のお爺さんです」
老年男性の一人暮らしは、整理整頓・家事清掃が行き届かないもの。
私は、過去に蓄積した経験を材料にして、部屋のグレーと汚染部のワインレッドを思い浮かべた。

「(お隣同士の)お付き合いは?」
「いえ・・・付き合いらしい付き合いは、ほとんどありませんでした」
性も世代も異なる〝お隣さん〟。
ただでさえ、人間関係が稀薄になってきている時勢で、付き合いがなかったのは自然なことだった。

「具合でも悪くされてたんでしょうかね?」
「さぁ・・・見た目は、元気そうでしたけど・・・」
顔を合わせれば、社交辞令の挨拶を交わすのみ。
悪い印象はなかったようだが、人柄や体調まではわかるはずもなかった。

「死因なんて、わかりませんよね?」
「わかりません!わかりません!」
身内でない女性は、さすがにそこまでは把握しておらず。
自殺or自然死の違いで、女性の精神の揺れ方も変わってくると思われたので、後にミスを犯さないよう予め確認しておいた。

「どちらにしても、人が亡くなっていたことには、間違いないんですよね?」
「それがですねぇ!・・・」
女性は、声のトーンを急に上げた。
そして、その後、話は本題に移っていった。

つづく

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