特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2006年分
特殊清掃「戦う男たち」
瀬戸際の釘
古いマンションの一室。事業に失敗した風の中年代男性が首を吊った。部屋の様相から、一時は羽振りのいい生活をしたことが想像できた。
私が参上した時は、首にかけた紐も外れて遺体は座りこんでうな垂れているような格好になっていた。もちろん、腐った状態で。皮膚の色は青黒く、かなりの悪臭を放ちながら腐敗液が遺体の周りに染みていた。ちょうど腐ったバナナを人間に見立てた状態に近い。
依頼者はそのマンションの管理会社とオーナー。死体そのものは警察が持って行ったので、私の仕事は腐敗液を吸った畳の処分と腐敗液の付着した部分の清掃。こんなのは、いつもの仕事として淡々とこなした。
一番嫌だったのは、首を吊る紐をかけるために故人本人が柱に打ったネジ釘を抜く作業だった。自分が首を吊ったとき、その体重で抜け落ちないようにするためだろう(確実に死ねるように)、10本位のネジ釘が一箇所にまとまるようにねじ込まれていた。
それを、一本一本ドライバーで回し抜いていく作業が、何とも言えない気持ち悪さを覚えた。全部の釘を抜くのに10分くらい要しただろうか、逆算すると、打つときもそのくらいの時間を要したと思われる。
「死んだ故人は、一体何を考えながら、このネジ釘を一本一本打っていったのだろうか」と、考えたくなくても頭に浮かんでしまった。
自殺には色んな方法がある。ビルからの飛び降りや電車への飛び込みは、一気に事が運べるが、首吊りのように下準備が必要な方法の場合、本人はどういう心境で準備をすすめていくのだろうかと複雑な思いがする。
そんな私も、「何でこんな仕事やってるのか神経が理解できない」「よくそんな仕事ができるな」と思われている方々も少なくないと思う(苦笑)。
決して陽の当たる仕事ではないが、これでも少しは他人様・世の中の役に立っていると思っている今日この頃である。