特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2006年分
特殊清掃「戦う男たち」
血の海と家族
マンションの一室、和室で中年女性が手首を切って自殺した。同居の夫や子供達がいる家だった。依頼者は故人の夫。
私が現場に着いた時はもう遺体はなく、血が4畳分くらいに広がっていた。よく「血の海」と言うが、まさにそんな感じ。部屋中に血生臭い匂いが充満していたし、視覚的にもかなりインパクトのある光景だった。特殊清掃をやっていても、血の海状態の現場は少ない。
「人間の身体って、こんなに血が入ってんだぁ・・・」と妙に感心するくらいだった。
とりあえず、作業料金の見積書を書いて御主人と話した。夫は予想外に平静で、子供達も普通に家の中を往来していた。とても妻・母が自殺したような動揺は家族には見えなかった。なんとも言えない妙な感じだった。
それどころか、夫は作業費用の見積りに対して、細かい質問を連発して値切ってきた。
私は、ビジネスライクな感覚は持ちつつも(仕事だから当然)人の不幸につけ込むような見積りはしないし、料金についての駆け引きもほとんどしないので、仕方なくわずかな値引きには応じたが、それでは満足できない夫は更に値引きを要求してきた。
雰囲気的には、リフォームや引越しの際の料金交渉をやっているようなノリで、違和感を覚えた。妻が自殺したばかりの和室は血の海になったままだというのに、そう高くもないお金のことばかりに気にしている夫って一体・・・。
私自身が苛立ちはじめ、
「値引きはできない」
「当社に発注しなくてもいい」旨を伝えた。
すると、ようやく夫も折れて、渋々注文書にサイン。
血液は畳や床板に染み込んで凝固する前に拭き取った方がいいので、イレギュラーだったが、血の拭き取り作業だけはその場で急いで取り掛かった。全部の血を拭き取るのに、相当量の吸水紙を使った。そして、翌日、畳を撤去。周りの住民に配慮する必要もあり、一枚一枚を不透明のシートに包んで搬出。最後に除菌消臭剤を噴霧して作業を完了した。
別に、礼を言ってもらう必要もないが、夫も子供達も終始無愛想なままで、気分が浮かないままでの仕事となった。こういう仕事だからこそ、元気にやりたかったのに・・・。
自殺したのがどんな奥さんだったのかは知らないが、残された家族が手厚く供養してあげるよう願うしかなかった。