特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2006年分
特殊清掃「戦う男たち」
知らぬが仏
特殊清掃と遺体処置のダブル依頼で現場へ。故人は中高年女性。
何人かいた遺族にお悔やみを述べ、
「よろしくお願いします」
と言われて家の中に入った。泣いている人も何人かいたが、一人だけ態度に落ち着きがなく、私にピッタリくっついて離れない人(中年女性)が居る。故人と同居していた長女らしい。
「妙な人だなぁ」
と思いながら、とりあえず遺体の安置されてある部屋へ。遺体には不自然なくらい(顔が隠れるくらい)に布団が深く掛けてある。それを見て更に妙に思った。
長女は、私に何かを言いたそうにしているのだが、他に人がいるから言えないといった様子で、歯がゆそうに私の動きを逐一監視していた。
その様子を感じ取った私は、
「遺体処置作業の都合」
ということで長女だけ残して他の遺族には席を外してもらった。葬儀では長女が喪主を務めるということだったから、ちょうどいい口実だった。
長女は、二人きりになってもしばらく黙っており、何となく気まずい雰囲気。
突然、
「事情がお分かりですか?」
と尋ねてきた。
「ん?事情?」
と、私は少々けげんな顔をしてしまったと思う。
でも、遺体を見てすぐ分かった。
掛布団めくってみると、首には季節はずれのマフラー?スカーフ?みたいなものが当ててあった。内心
「首吊りかぁ・・・」
と思いながら、その布をとってみた。やはり、首にはクッキリと紐の痕がついていた。
「事情って、このことか」
と思いながら、長年の経験がある私は首吊自殺くらいでは驚きはしないから、長女には
「慣れてるから平気」
であることを伝えた。
しかし、長女が気にしていたのは全く違うことだった。
「故人が自殺死であるということは、家族・親族内では自分以外誰も知らないし、これからも隠し通したい。」
と言うことだったのである。
これには、ちょっと驚いた。早朝、首を吊った母親を発見し、自分一人で降ろして、布団に寝かせ、家族には突然死(自然死)に見せかけたというのだ。救急隊員や警察にも、他の者には知られないようにお願いしたとのこと。
そんな話を部屋から声が漏れぬようヒソヒソ話。そして、私への要望は、
「遺体を誰が見ても首吊自殺だと分からないようにして欲しい」
というものだった。
その要望自体は大して困難な作業ではないので、快く引き受けて無事完了(細かい作業内容は内緒)。その仕上りに、長女も私も満足。
作業が終わってから部屋を開放し、遺族の皆さんに集まってもらった。
皆が皆、自然急死だと思っているので、故人の子供や孫達をはじめ、かなりの人が
「お母さん(お婆ちゃん)、可哀想に・・」
等と言いながら泣いていた。
長女は、肩の荷が軽くなったようで、表情も穏やかになった。仕事を終えた私は、遺族で混み合った家の中で長女と目で会釈を交わしから現場を後にした。
故人の死去を聞いて駆けつけてきた親類に対しては時間稼ぎもできるし、何とか隠すことができても、同居している夫や子供達にまで隠し通していたのは見事であり、表現がおかしいかもしれないが感心した。
長女には長女なりの情があった故のことだろうし、その家族・親族にも他人には分かり得ない事情があったのだろう。
何がともあれ、これが、長女が母親にしてあげられる最期の親孝行だったのかもしれない。