Home特殊清掃「戦う男たち」2006年分「生き残れ!」

特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2006年分

特殊清掃「戦う男たち」

「生き残れ!」

ある日の午後、特殊清掃の見積依頼が入った。依頼者は、死体現場なのか遺品回収なのか、またはゴミ処分なのか全く教えてくれず、

「とにかく鍵は開いているから、勝手に入って見積りをしてくれ」

という一方的な依頼だった。見積時に依頼者が来ないケースは珍しくなくなってきたので(好ましくはない)、今回も仕方なく現場へ向かった。

おおまかに現場近くまで行ってからカーナビで現場住所を検索してみた。ナビは目的地を表示するもの、最大限に拡大してもそこへたどり着く道が表示されない。

「???どうやって行けばいいんだ???」

と思いながら、とりあえず、接近可能な場所まで車で行った。夕暮時で、外は薄暗くなっていた。辺りを見渡して、地図とナビが示した方面に家を探したが、目的の家らしき家は見当たらない。困ってしまい、近隣の家を訪問して訊いてみることにした。

ある家に訪問して

「すいません。ちょっとお尋ねしたいことがあるんですが・・・。」

と声を掛けたまではよかった。

「○○さん宅をご存知ないですか?」

と尋ねた途端、その家の人の表情が変わった。

「知ってますけど・・・○○さんちに行くんですか?」

と驚いた様子。

「この驚き方は腐乱死体現場かな?」

と思いながら、

「ええ、でもちょっと場所が分からなくて・・・」

と私。

 

とりあえず、その家の人は

「本気で行く気か?」

とでも言わんばかりの表情ながら、丁寧に場所を教えてくれた。やはり、車では入れないところらしい。
一通り場所を教わると

「ご丁寧に、ありがとうございました。助かりました。」

とお礼を言って現場へ向かった。
その家の人は

「どういたしまして。本当に気をつけて行って来て下さいね。」

と意味深に見送ってくれた。

「妙な見送り方をするもんだな・・・」

と思いながら、

「それだけヤバイ現場っていうことか・・・」

と考えながら、車を進めた。教わった場所に車を停め、あとは徒歩(トホホ・・)。もう外はかなり暗くなっていた。

 

暗くなってからの出動は日常茶飯事なので懐中電灯は常に車に積んである。
歩いていく途中には外灯もなく余計な墓地があったりして、小心者の私には最高の演出だった(冷汗)。

歩くことしばし、やっと目的の家を発見。現場は住宅地から離れた、森?雑木林?藪?の奥にあった。しかも、とても人が住んでいたとは思えないような老朽家屋だった。
この辺でさすがの?私もビビり始めた。
でも、見積りに来た以上は中を見分しなくてはならない。誰もいないと分かっているのに、

「こんばんは~」「ごめんくださ~い」

と小声で念仏を唱えるように、家に近づいて行った。

 

懐中電灯を家に向けて照らすと、そこには無数に光るものが。
全体を照らしてみると、20~30匹はいただろうか、たくさんのネコがジーッとこっちを睨んでいた。これには背筋もゾーッ!この不気味な状況をリアルに伝えられないのが悔しい。ネコ達は私が近づいても視線を動かすだけで微動だにしない。それが更なる無気味さを増長させた。

「いくらネコとは言え、こいつら全部に同時に襲われたら生きてられないかもな」

と思いながら、このネコ郡を越えていくかどうか迷った。

何とか家に到着。中に入ろうと入口を探したが、入口がなかなか見つからない。

「これで、中に腐乱死体痕があったら、どうしよう・・・」

気持ちは半泣き状態で

「見積りなんか放っておいて、もう帰ろうかなぁ・・」

と思ったほど。
その矢先、いきなり中から人間が(中年男性)が飛び出してきたのである。
もう、驚いて、腰を抜かすかと思った!!

 

男性は最初からキレた状態で、私に訳のわからないことを怒鳴り散らしていた。男性は私に襲い掛からんばかりの勢いで、私の言うことなんかには耳も貸さず怒鳴り続けた。

暗闇の雑木林の中で、私は無意識のうちにその辺の棒キレを手に持った。
私も、こんな所でやられるわけにはいかない。いざとなれば応戦するしかない。

しばらくして、やっと男性も落ち着いてきて、会話ができるまでになった。
事情をきくと、今は、金もない・仕事もない状態で、借金もたくさんあるとのこと。普段から金融会社の取り立ても厳しく、私を借金取りと勘違いしたらしい。
そのうち、

「もう俺は死ぬしかないんだ・・・死んで金を払うしかない・・・」

と言い始めた。
半分開き直っている私は

「生命保険とか年金とか、ちゃんと入ってるんですか?」

と無神経な質問をしてみた。
応えは

「金がなくて入ってない」

とのこと。ズッコケ!

「じゃぁ、死んだって一銭にもならないじゃないですか!せっかく生まれてきたのに自分の命が¥0なんて悔しくないですか?」

と一喝。
それでも男性は

「そんなこと言ったってしょうがないだろ!」

と反論。

「アナタが死んだら、家族やネコ達はどうなるんですか?」

と言ったら、男性も黙り込んだ。

さすがに、家族やネコ達を残して逝くことには躊躇いがあるようだった。
愛する者、自分を愛してくれる者の存在は、それだけ影響力があるのだろう。

何はともあれ、実際に人が住んでいる以上は、勝手に中にも入れないし(入りたくもなかったし、入らせてくれともお願いしなかった)、こんなに苦労したのに、見積ができないま退散することに。

翌日確認すると、そこは借家で、私に依頼してきたのは大家らしい。
大家さんの事情を想像すると、家賃の滞納はもちろん、その汚宅は地域住民からのクレームも少なくなく、強制的に追い出すしかないと考えたのだろう。そうは言っても自分で手を下すのは抵抗がある。そうして探し当てた適任者?が特掃部隊。大家は、特殊清掃をやっている人間だったら神経も図太いと考えたのだろうか、詳しい事情も話さず

「とにかく、見積りに行ってくれ!」だった。

大家さんには

「勘弁して下さいよぉ」

とクレームをつけたら、

「今度は明るいうちに行って下さい」

と言われてしまった。

・・・一瞬、言葉に詰まったが

「見積時は御依頼者に立ち会っていただくのが原則なので、今度は、大家さん一緒に行きましょう」

と返しておいた。

大家は、あっさり同行を拒否。私もこの仕事には気が進まなかったので断ろうかとも思ったが、アノ男性のことが気になったので、再訪問してみることにした。
ホントに死なれちゃかなわない。

 

今度は明るい日中、手土産に、自己破産について分かりやすく書いてある本を持って。
二度目の訪問ということもあったし、明るい時間に行ってみると、案外、不気味さはなかった。
明るいところで見ると、ネコも格好可愛いもんである。数が多すぎるのが難だが。
男性はいた。今度は最初から冷静に話ができた。
スゴク失礼かとも思ったが、持参した

「自己破産ガイドブック」

をプレゼント?した。
(自分でも読んでみたが、自己破産にも色々な種類があることを知り結構勉強になった)
昔どこかで聞いたことがある言葉を思い出して男性に訊いた。

「目は見えますか?」「うん、見える」

「耳は聞こえますか?」「うん、聞こえる」

「話すことはできますか?」「うん、話せる」

「手は使えますか?」「うん、使える」

「歩くことはできますか?」「うん、歩ける」

「じゃあ、ないのはお金だけですね。人間、死にたくなくてもいつかは死ななきゃならない。死ぬのは、やれるだけの事をやってみてから考えたらどうですか?」

私は、そう言い残して現場を後にしたのであった。

その後、大家からは何の連絡もない。

「連絡がないのは男性が無事な証拠」

と勝手に思っている。

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