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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2006年分

特殊清掃「戦う男たち」

人は必ず誰かの子であり、親がいる。

また、とある腐乱現場。亡くなったのは独居の中年男性。死後、かなりの時間が経過しているようだった。例によって、遺体は警察が持って言った後で、腐乱痕と異臭が残されていた。
もちろん、私とは旧来の喧嘩友達であるハエ君とウジちゃん達もたくさん集まっていてくれた(笑)。

遺族は、故人の両親と故人の姉妹らしき二人の4名。見積時も作業時も4人とも現場に来た。両親はもうかなりの年配で

「おじいさん、おばあさん」

という感じ。
姉妹達(中年女性)は見積時も作業時も玄関から中に入ることはなく、ハンカチでずっと鼻口を押さえ、嫌悪感丸出しの表情で、私の作業を遠めに眺めていた。

それは、どう見ても、

「最初から来たくなかった!」

という感じ。
明らかに、現場に居たくないという雰囲気をひしひしと感じ、気のせいか、やり場のない不満を私に向けているような威圧感を感じた。
そんな雰囲気じゃ、こっちこそいい気分がしないので、

「そんなに居たくないなら、立ち会ってもらう必要はないんだけどなぁ」

と思いながら、その一家の会話を聞いていると、両親(特に父親)が強制的に姉妹達も現場に来させたみたいな様子が見受けられた。
父親(おじいさん)からは、

「兄弟の死の実態を、身内としてシッカリ見て置け!現実から逃げるな!後始末は我家の責任なんだ!」

と言わんばかりのガンコ親父的な雰囲気を感じた。

 

当人の父親と母親は、私の作業の邪魔にならないように、部屋の中に入って私の作業をずっと見ていた。臭いし、ホコリっぽいし、何より不衛生なので、

「外で待っていてもいいですよ」

と声を掛けたが、

「大丈夫ですから」

と言って外に出ようとしない。
何事においても浅はかな考えが第一にくる私は、

「貴重品がでてくるかもしれないから、チェックのために居るのかなぁ」

と疑心暗鬼になりながら黙々と作業を進めた。

すると、いつも間にか父親は、目を閉じ合掌してなにやら経文のようなものを唱え始めた。
てっきり

「亡くなった息子の冥福を祈ってるんだろう」

と思った。
しかし、違った。
父親は、明らかに私に向かって拝んでいたのである。作業であちこちと動いているうちに、父親が常に私の居る方へ向きを変えながら合掌・読経し続けていることに途中で気が付いたのである。
一体、何故?
ひとしきりの読経が終わると、父親は

「この作業にこんな若い人が来るとは思っていなかった。貴方が何故この仕事をしているかは分からないが、社会から嫌な思い受けることも少なくないでしょう。」

と私に言い、傍の妻には、私のことを指して

「死んで極楽に行けるのは、この人のような人間なんだよ。」

と言った。

妻は

「・・・そんなこと言ったら失礼よ!」

と返した後、私に

「縁起でもないことを言ってスイマセン・・・。」

と謝罪。

それでも父親は、その類の話をやめず、私への労い・感謝の気持ちと、親としての無責任さを恥じるような話を続けた。
ストレートな言葉から、その謙虚で誠実な人柄と責任感の強さがちゃんと私に伝わった。

この両親は、自分の子供がこんなこと(腐乱死体)になって色々な人に迷惑を掛けてしまっていることを重く受け止め、親として、なすべき責任を少しでもまっとうしようとしているのだった。だからこそ、悪臭漂うおぞましい現場に一緒に入っていたのである。
これには、逆に私の方が敬服。

息子を亡くした悲しみを抑えて、親として責任をとることを第一に考えるとは・・・こんな責任感の強い人にはなかなか出会えないものである。
片や、姉妹達は相変わらず嫌悪感丸出しで、玄関外で仏頂面(そのギャップに笑)。

惨めな気持ちになりやすいこの仕事に、強力なカンフル剤を打たれたようで、ありがたかった!嬉しかった!

ただし、人から拝まれるなんてめっそうもない!さすがに、それには恐縮しまくった!
ただの仕事として割り切るところは割り切って、時にはふざけた邪心を持ちながらやっている愚か者の私をそこまで高評してくれるなんて。

しつこく書いているように、一般には嫌悪されるこの仕事・・・父親の言葉に涙が零れ落ちて上を向けない私だった。
床の腐敗液を拭きながらうつむいたままの私に、

「どうしました?大丈夫ですか?」

と母親が声を掛けてくれた。
父親の言葉が心に沁みて泣けていたんだけど、

「ちょっと薬剤が目に染みちゃいまして・・・」

とごまかす私だった。

 

「親」と言えば・・・
6月6日掲載の「金がない」で保留になっていたその後の結末を追記しておこう。
代金は、故人の父親が約束通り支払ってくれた。そして、後日、丁寧な礼状と贈答品が送られてきた。

自分のケツを他人に拭かせるような親が目に付く昨今、まだまだちゃんとした親も多く居ることを気づかされ、少しホッとした。
同時に、

「結果オーライ」

と言ってしまえばそれまでだが、この仕事は代金未収のリスクを背負ってでも施行した判断は正しかった(良かった)と思った。

 

いくつになっても親は親、子は子。
親のある人、子を持つ人。親には孝行し、子には愛情をタップリと注ごう。

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