Home特殊清掃「戦う男たち」2006年分そこのけ、そこのけ、死体が通る

特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2006年分

特殊清掃「戦う男たち」

そこのけ、そこのけ、死体が通る

死体業には色んな仕事がある。

私は、一応、特掃隊の一員として死体と格闘する日々だが、時にはそれ以外の仕事にも出る。遺品回収・遺体処置・遺体搬送などなど。

その遺体搬送業務のことを「死体とドライブ」と表現したことがあった。
それを聞いて(見て)、もしも、死体を自家用車の助手席にでも乗せて、気ままにドライブしていると想像された方がいるとしたら、かなり可笑しい。
そんなことしたら、さすがにヤバイでしょ(笑)。

でも、業界外の人が想像できないにも当然と言えば当然か。
遺体搬送には遺体搬送用の専用車両がちゃんとある(霊柩車とは違う)。
車体は1Boxタイプがほとんどだが、まれにステーションワゴンタイプもある。
車内後部が荷台になっており、ストレッチャーという折りたたみ式の車輪付担架を搭載している。

分かり易く言うと、救急車をものすごくシンプルにしたような車だと思ってもらえればいい。
病院から自宅、自宅から葬式場など、遺体を積む場所と降ろす場所は人によって様々である。もちろん、夜中の出動もある。

病院は、亡くなった患者を長くベッドに寝かせておくことを好まない。
他の患者への配慮もあるのだろうが、空ベッドをつくると経営効率も落ちる。
一日でも早く新しいお客さん・・・いや、患者さんに入院してもらえるようにしたいのである。

病院にとっては、なるべく空ベッドをつくらないようにして、入退院の回転率を上げることが重要なのだ。
したがって、昼間でも夜中でも関係なく、患者が亡くなると直ちに遺体の搬出要請が入る。それが、夜中になった場合は、まさに夜中に「死体とドライブ」となる訳である。

ちなみに、看護婦にも感じのよい人とそうでない人がいる。
良心的な看護婦は快く遺体の移動を一緒にやってくれるのだが、そうでない看護婦は遺体への嫌悪感丸出しで、ものすごく感じが悪い
こんなのは、ごく一部の看護婦さんだと思うが(願いも込めて)。
そういう人に遺体をベッドから担架に移動させる作業を一緒にやらせようものなら、私への文句も一言では済まない。

それでも、しかめっ面の看護婦にペコペコしなくてはならないのにはストレスがかかる。
そんな時は「白衣の天使」も「悪意のテン師」に見える。

外の暗闇や死体と二人きりになっていることよりも、睡魔の方が怖い。
眠いときは本当に眠くなる!夜中に死体と一緒に事故死でもしたら洒落にもならないし、死体にとっては二回死ぬようなもので、あの世に行ってから殴られるかも(笑)。

遺体搬送業務だけとっても色々な思い出と経験を積んできた。
例えば、病院から自宅へ搬送する場合、そこが古いマンションや団地の場合は旧式エレベーターが多く、ストレッチャーが入らないところが多い。

その場合は、担架などは使えず、遺体を抱えるしかない。
浴衣を着て冷たく硬直した遺体を強引に立たせた状態でハグしてエレベーターに乗るのである。

浴衣姿で蒼白い顔、不自然にグッタリしている人を抱えてエレベーターに乗っている男を想像してみてほしい。なんとも不気味だろう。
ここで笑っちゃいけないよ。やってる私は「落としでもしたら大変!」と冷汗もので真剣に抱えているのだから。

しかし、他の住民はそんなのが乗っていると知らずにエレベーターを止める。
ドアが開いた時にみせる住民達の反応はとても面白い。
驚く人、悲鳴をあげる人、目が点になって呆然と見ている人など反応は様々。
一番可笑しいのは、死体だと気づかないで一緒に乗ってきて、死体だと気づいた途端に逃げようとする人(動いているエレベーターで逃げられる訳もないのに)。
そんな人は、当初の目的階なんか放っておいて、必死で次の階のボタンを連打する。
そして、ドアをこじ開けるようにして、そそくさと小走りに去って行く。
その様がなんとも可笑しいのである。

だいたい遺族は先に自宅階に上がって待っているので、私が遭遇した途中階での出来事は知らない。
遺体を抱いたたまま明るい笑顔でエレベーターから出てくる私をみて、だいたいの遺族が

「コイツ、普通じゃないな」

という表情を浮かべる(笑)。
同時に、何とも滑稽な私の姿を見て、思わず吹き出してしまう遺族や笑顔(内心では爆笑しているのかも)になる遺族もいたりして、結構、和やかな雰囲気になることも少なくない。
ちなみに、私の笑顔に「不謹慎だ!」等とクレームがついたことはない。

本件以外にも、死体を背負ったこと、抱かかえたことは数知れず。
変かもしれないが、小さく軽くなった老人を背負う時などは、何とも言えないない温かい気持ちにもなる。

「おじいちゃん(おばあちゃん)、お疲れ様でしたね・・・」

と心の中で呟く。
やはり、「死体が気持ち悪い」という感情よりも、「落とさないように」という緊張感の方が強くて、不気味とか怖いなんて気持ちは全然ない。

ちょっと脱線。
「死体をハグする」で思い出したが、6月21日掲載「ハグ」に登場した不動産屋の担当者は勤務する会社は退職したものの、今でも不動産会社で頑張っている。
さすがに、あの時からしばらくは暗い日々を送ったようだが、今は、飲み会や合コンなどでそのネタを出すと、すぐさまその場の主役になれて、まんざらでもないらしい。

しかも、あちこち同じネタで何度も話しているものだから、話し方や状況の描写もうまくなり、話を聞く皆に抜群にウケるらしい。まるで、落語家のよう。
すごい災難に遭遇してしまった彼だったが、それによって少しはいいことがあるみたいで、まぁよかった。

遺体を運ぶのに老若男女や身体状態を選ぶことはできないけど、どうせ運ぶなら安らかな顔の老人がいい。
そして、笑顔で仕事をしても遺族の心象を害さないくらいの器を持った人間になりたいものである。

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