特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2006年分
特殊清掃「戦う男たち」
冷暗室
「霊安室」と聞いて何を思いつくだろうか。
言うまでもなく、そこは遺体を安置する場所。
そして、霊安室という名前がつけられた部屋がある施設と言えば、ますは火葬場が挙がる。葬儀専用式場もある。あとは、病院。
一口に霊安室と言っても、部屋の模様は各種バラバラ。
ホテルのラウンジのような豪華な所もあれば、倉庫のような御粗末な所もある。
遺体保管用の保冷庫を設置してある所もあれば、ただのテーブルをベッド代わりにしているような所もある。
これは、とある老人病院の霊安室でのこと。
「老人病院」と言われるだけあって入院患者のほとんどが高齢者。
死人がでない月はないだろう。
俗に言う、「アノ病院に入ったら、生きては出られない」と揶揄される病院の一つかもしれない。
私の仕事は、故人に死後処置を施し、自宅まで送り届けること。
病院の指示によると、「故人は霊安室の保冷庫の中。霊安室には何人かいるけど、行って見れば分かるから。」とのこと。
病院の職員も何かと忙しいのは変わりないので、遺体搬出に立ち会ってもらうことは断念。
職員の手を煩わせないように、一人で霊安室へ。
そこには遺体用の保冷庫が備わっていた。
「家庭用の大型冷蔵庫をそのまま横にした感じ」と言えば具体的に想像できるだろうか。とにかく、横長方形のでっかい冷蔵庫だと思ってもらっていい。
ほとんどの機種が一人一空間になるような構造。
私も、指定された遺体を求めて保冷庫のドアを開け、中を見てビックリ!
一人用の空間に、複数人の遺体が折り重なるように納まっていたのである。
それは、まるで一人分のカプセルホテルに5人で寝るようなもの。
それはまるで、死体のミニ山。
「うわぁ・・ヒドイことするもんだなぁ・・・」と呆れた。
全ての遺体は浴衣を着ており、判別しやすいようにその襟元には大きな字で姓名が書いてあった。
「この名前を見て遺体を捜し出せ」と言うことか・・・不満。
たまたま患者の死亡が重なって保冷庫の数が足りなくなったのだろうが、この状態を遺族が見たら見たらきっと怒るはず。
「ドライアイスをうまく使うとか、もっと他にやり方があるだろうに」と呆れるやら不満に思うやら。
折重なり合う遺体の中から、目的の人物を捜すのは往生した。
老人とは言え人間一人分の大きさと重さがある。
それらが狭いスペースに折り重なっているものだから、そりゃ大変。
「○○さぁ~ん、どこですかぁ?」と独り言が口からでてしまうのはいつもの癖。
やっと目当ての遺体を見つけても、それを保冷庫から出すのがまた大変だった。
他の遺体を「ごめんなさいね。ちょっとどいてて下さいね。」等とまた独り言をいいながら、ヨイショ!ヨイショ!と作業した。
また、別の日、別の病院。
この病院では、病室のベッドまで直接迎えに行った。
霊安室を経由しないで、病室まで行くことも珍しくない。
私はストレッチャー(7月10日掲載「死体が通る」参照)を押しているので、他の人からみても何者かがすぐ分かる。
その病院で、一階から患者さんと同じエレベーターに乗ったときのこと。
私は何も言っていないのに、その患者さんは私の目的階のボタンを押してくれた。
そして、その人は「○階に行くんでしょ」と私の行く先を言い当てた。
霊安室がある階ならまだしも、一般病棟の一般病室に行くだけなのに。
「この人、超能力でもあるのか?」と困惑していると、その患者さんは追い討ちをかけるように「今日で○日連続なんですよぉ。○階で死人がでるのはぁ。」と言い残して、自分の病室がある階で先にエレベーターを降り去って行った。
余計な最新ニュースを聞いてしまった私は唖然。
「嫌なこと聞いちゃったなぁ」とブルーになりながら、目的階の目的病室へ。
気のせいか、その階では、他の患者さんの視線がひときわ鋭く感じた。
私は誰とも視線が合わない様、あえてうつむいたまま目的の病室へ行った。
たまたまとは言え、この階で○日連続して人が死んでいるものだから、看護士も気まずいのか、神経質に私と遺体に「さっさ遺体を積んで、さっさと消え去ってくれ」と言わんばかりの促し様だった。
遺族も早く出て行くように急かされているように映った。
死体業の実態もなかなか面白いかもしれないけど、病院の裏側にも面白い(笑えない)実態がある・・・自分が知っている事はほんの一部だと思うと人間不信に陥る。
汚い物って社会的にも物理的にも人目につきにくい「裏」にあることが多いと思う。
そして、何事も裏を知らないで済めばその方が幸せなのかもしれない。
病院霊安室の出入口が冷たく暗い裏側にあるのと同じように。