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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2006年分

特殊清掃「戦う男たち」

ウ○コ男

容易に想像してもらえると思うが、夏場の特掃業務は過酷さを極める。
更に、夏場は特掃依頼の数でいうと、一年を通した山場でもある。

その理由も想像は説明するまでもなく、気温・湿度の高い夏は遺体の腐敗スピードも早いからである。
しかも、一件の現場のみならず、そんな現場を複数抱えなければならないことも、過酷さを増す要因になる。

逆に、気温・湿度の低い冬場は遺体の腐敗スピードもかなり遅く、不幸中の幸いに、ある程度の腐敗が進行する前に家族や関係者に発見されるケースが多い。
「無断欠勤が続いている」「ここ何日か電話にでない」「新聞がたまっている」等の生活異変で。
もちろん、真冬でも遺体は少しづつ腐っていくが、ミイラ化現象も並行していくので絵に描いたような腐乱死体になるには、結構な時間を要するのである。
(「絵に描いたような腐乱死体」については、7月12日掲載「液体人間」を参照)
対して、夏場は「異臭がする!」と近隣住民が通報することがほとんど。
それだけで、現場の悲惨さや過酷さを想像できると思う。

それでも、玄関や窓を開けて作業ができればまだマシ。
できるだけ外部に悪臭を漏らさないように、ドアや窓を閉め切って作業することを望まれる依頼者も少なくない。極端なケースだと、外から中が絶対見えないように雨戸を閉め切らざるを得ないこともある。
もちろん、そんなことを横柄に指示してくる依頼者はいない。こちらの労苦にも配慮をもらった上で、言いにくそうに頼んでくる人ばかり。
近隣住民に対する依頼者の気持ちは痛いほど分かるので、「冗談じゃないよ!」「勘弁してくれよ!」等とは思わず快く引き受ける。

しかし、それだけ作業は過酷になる。
最悪なのは、電気が停まっているのに雨戸を閉め切らないといけない場合(これは滅多にないが)。
昼間と言えども中は暗くなる。
大きめの懐中電灯を部屋のあちこちに置いての手探り作業。当然、頭にもつける。
そんな現場は、まるでサウナに腐乱死体と入っているようなもの。
一時間も連続しては入っていられない。
こまめに外にでて水分補給と深呼吸をしないと倒れそうになる。
(残念ながら、年齢による体力の衰えが否めない)
そして、その都度、防汚装備を脱着しなくてはならず、作業効率はかなり落ちてしまう。
でも、作業効率を優先するあまりに無理をして、仮に中で倒れて逝ってしまうようなことがあったら、私の関係者は泣いていいのか笑っていいのか分からず反応に困るだろう(笑)。
自分の死を常に意識する癖がついてしまっている私は、ちょっと体調が悪くなっただけでもそんな事を考えて気持ちの帯を締め直す。
そして、どんなに作業効率が落ちても、キツイ無理はしない。
現場で死んだら、ホント、洒落になんないからね(笑)。

汚染現場が水回り系(風呂・トイレ等)だと全身防護服を着ることが多いが、そうでないとマスクと手袋くらいで済ます。
サウナ状態の現場で全身防護服なんか着たら、作業に手を着ける前に倒れてしまう。

防護服を着ても腐敗臭は身体やユニフォームに付着する。
当然、防護服を着ないと尚更。
これが臭い!!
自分でも自分が臭いことが分かる!
作業が終わって外にでてもプ~ンと自分が匂っているのが分かる。
生きているくせに腐乱死体の臭いがする人間なんて、世界広しと言えどもそう滅多にはいないだろう。ひょっとして天然記念物級の貴重な存在?
そんな状態だから、事情を分かっている依頼者以外の他人には近づけない。
(店に入ると他人に不快な思いをさせてしまうので、飲料・食料類は事前に買っておく)

しかし、「何やってるんですか?」「ここで何かあったんですか?」と、モノ珍しそうな顔をして不用意に近づいてくる通行人がいる。
依頼者とは暗黙の守秘義務を交わしている私は他人に余計な事は言わない。
返事の代わりに悪臭パンチ。私の身体が放つ悪臭パンチに驚愕の表情を浮かべてスゴスゴと引き下がって行く(逃げていく)。

一番手間がかかるのは子供。
近くに子供達の姿が見えると「こっちに来るな!」と念じる。
子供は好奇心が旺盛だ。
ちょっと変わった雰囲気を醸し出している私に遠慮なく近寄ってくる。
そして、「うわぁッ!臭ぇー!」と更に遠慮のないセリフを吐いて走り逃げて行く。
愉快な連中になると、友達を呼んできては度胸試しでもするかのように私に近づいては逃げることを繰り返す。
かつての自分にも覚えがあるが、子供って無邪気な分、言葉や態度もストレート。
他人への礼儀なんかお構いなく、自分達が楽しむことを優先する生き物(それでいい)。

始めは、微笑ましく思いながら寛容に受け入れているものの、何度もやられると次第に悪戯心が芽を出す。
そのうちこっちも開き直って子供のようになり、「オジさん、ウ○コがたくさん着いてるんだ」と言って追い駆けるようなしぐさをする。そうすると、叫び声をあげて逃げていく。
でも、そこは子供。
結局、それを遊びにしてしまい、また戻ってくる(可愛いものだ)。
戻ってくる度に人数が増えてくる。
まるで、ウジ・ハエのような連中だ(笑)。
彼等が成長していくにつれ、「ウ○コ男」は伝説になっていくだろう(笑)。

子供達には子供時代の純真無垢な楽しさを充分に満喫してほしい・・・かつての私のように。
そして、無邪気な笑顔で真っ直ぐに育ってほしい・・・私のような人生を歩まないように。
消臭剤を自分にかけながら、その思いを強くする私である。

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