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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2006年分

特殊清掃「戦う男たち」

酒と遺書

私の仕事においては、自殺遺体や自殺現場に遭遇することは珍しいことではない。
昔は、自殺には通常死とは違った感覚を覚えていた。
変な言い方になるかもしれないが、時に新鮮だったり、時に不気味だったり、時に憤ったり、時に同情したり、時に緊張したり、時に興奮したり。

いいのか悪いのか分からないが、今は、自殺遺体や自殺現場に慣れてしまった自分がいる。
自殺現場となると遺族からの依存度も高いので、それに応えようと妙に張り切ってテンションを上げてしまう自分がいる。
職業柄から仕方のないことかもしれないけど、明らかに一般の人と比べ死に対する感覚が異なっている自分がいる。

自殺を大きく分類すると、衝動的なものと計画的なもの、そしてその両方を兼ね備えたものに分かれると思う。
衝動的な自殺と計画的な自殺を判別する材料は色々あるだろうが、身辺整理をした形跡の有無と遺書の有無は大きな要素になると思う。
私の経験では、明らかに身辺整理をしたような形跡があった現場はなかった。整理整頓された部屋を、故人の死後に警察や遺族が散らかした可能性も大きいが。
また遺書を直接見たことはない。遺書の存在や内容を遺族・関係者から聞かされることはあっても。

遺書にも色々あるよう。
短いメモ書き程度のものやこれから死ぬ人間が書いたとは思えないようなシッカリした文章のもの、同じく残される人に遺志を託すものや残される人のことを案じるもの等。
自分が死んだ後のことを憂いながらも、自ら死を選ぶ究極の選択だ。
私も好き勝手な憶測で文章を書いていながら、真の理由は本人にしか分からないという淋しい現実があることも承知している。

遺体の傍に酒の空瓶や空缶が転がっている現場がある。
本当は死ぬのは不本意なのに死ぬしか道がないと覚悟して、それでもこの世に未練があったり残される人のことを案じたり、死ぬのが怖いと思いながら決死の自殺を図る・・・酒の力を借りて。
例によって、私の勝手な憶測かもしれないけど、酒を煽ったような跡がある現場は少しの戸惑いと嫌悪感みたいなものを覚える。
「酒の力を借りなければ自殺できなかったのか・・・だったら生きてりゃよかったのに・・・」と思ってしまうから。
これは、衝動的な自殺にあたるのだろうか、計画的な自殺にあたるのだろうか。
自殺にスッキリするもしないもないけど、どうもスッキリしないモヤモヤしたものを感じてしまう。

「だったら自殺なんかしなきゃいいじゃないか」と思うのは正しいことか。
「死ぬ気になったら何だってできる」と言うのは健常なことか。

自殺を考える人にとっての死は、楽になれること、苦難から逃れられること、ウサを晴らすこと。自殺を嫌悪する一般の人々とは相容れない価値観を持っている。
「死ぬ気になったら何だってできる」なんて理屈はナンセンス、通用しない。
「何でもやらなきゃいけないのなら死んだ方がマシ」と言うことになる。
6月14日掲載「自死の選択」で記したことも本音ながら、一方で自殺を否定しようとする自分と肯定しようとする自分が葛藤している。

私は遺書(遺言)を書いてある(書き続ける)。
親しい友人・知人に遺言を伝え、希望する葬式の仕様まで残してある。
もちろん、今は自殺願望はないけど私にとって生きるために遺書(遺言)は必要だから。
読者にも遺書(遺言)は書いておくことを勧めたい。
自分の誕生日に合わせて毎年遺書を書き溜めていくのがよくあるパターンかも。
遺書を書くと、自分にとって大事な人は誰か、何が大切なのかがよく分かってくる。
価値観の真(芯)が見えてくる。
そして、生き方が少しだけ変わる。

死にたくなったら、まず遺書を書こう。
一人で静かに時間をかけて、できるだけ素直に、できるだけ詳しく、残される人にできるだけの想いが伝わるように。
それが生きる術になるから。

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