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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2006年分

特殊清掃「戦う男たち」

パートナー

ある老年男性。
妻の葬儀のため一時退院してきた夫は、何も言われなくても病弱ということが明らかだった。
痩せ細った身体は、誰かの介助がないと部屋を移動することもままならない様子。
本来なら、一時退院できるような身体ではなかったのに、無理を言って一時帰宅したとのこと。
「長年連れ添った妻の葬儀」と言えば病院側も承諾せざるを得なかったのだろう。
夫は弱々しい中にも力のこもった言葉で、妻の亡骸に向かって何度も「ありがとう」「ありがとう」と声を掛けていた。そして、「もうじきそっちに行くから待っていてくれ」とも。
作為的な脚色だけど、その別れのひと時は、老夫婦が最期の輝きをみせた瞬間に見えて神妙な気分になった。
その一週間後、私は同じ家に行くことになった。
現場に到着するまで同じ家だとは気づかないでいた。
その家の玄関に到着して、「ん?先週来たばかりの家だ・・・間違いかな?」と間違いじゃないかどうかを会社に確認した。
間違いではなかったので「アノお爺さんが亡くなったのか・・・?」と思いながら玄関を開けた。
亡くなったのは、やはりアノお爺さんだった。
不謹慎かもしれないけど驚きはなかった。
遺族には何と声を掛けていいのか分からず、前回訪問時に比べて自然と言葉数も少なくなった。
対する遺族も私と何を話せばよいのか分からず、言葉が見つからない様子。
既に顔見知りの双方に余計な会話は必要なかった。
故人となったお爺さんは葬儀が終わってから直ちに再入院したものの、体調を一気に崩して妻の後を追うように亡くなったとのこと。
「すぐに自分も逝くから・・・」という言葉は現実のものとなった。
本人にとっては、死に対する心の準備と覚悟がきちんとできていた上での言葉だったのだろう。
帰り道、「お爺さんは、天国でお婆さんと再会できただろうか・・・」としみじみ考えたのを憶えている。

ある老年女性。
夫の亡骸に添い寝をしていた。
最初は家族も止めさせていたのだが、いくら止めても目を離した隙に添い寝をしてしまうらしく、家族もお婆さんの執拗さに根負けしてしまったらしい。
私も仕事がかなりやりにくかったけど、そのお婆さんの気持ちを思えば思うほど遺体から引き離すことはできなかった。
この老夫婦も長い長い年月を共に過ごしたのだろう。
子供達も立派に育て上げ、それぞれがいい歳になり、大きな孫もたくさんいた。
私自身も死体には抵抗感が少ないと自負?している人種だけど、さすがの?私も死体と一緒に同じ布団で寝るのは抵抗を覚える。
「お婆さんは、よっぽどお爺さんのことが好きだったんだろう」
そう思うと、微笑ましくもありながら死別の淋しさが一層気の毒に思えた。
夫を失った喪失感は他の何によっても埋めることはできないのだろう。
遺族からは「こんな調子じゃ、お婆さんも長くないかもな・・・」という溜息も聞こえてきた。
その後、そのお婆さんがどんな人生を過ごしたのかは知る由もない。

一般的には、一生のうちで最も長い間を共にするのは親子でもなく兄弟姉妹でもなく夫婦(配偶者)だろう。
お互い、長生きすればするほど共に過ごす時間も長くなる。
そして、共に過ごす時間が長くなるほど、単なる愛や情を越えた固い絆ができてくるのではないだろうか(想像)。
「生まれ変わっても同じ相手と結婚したい?」なんて愚問は熟年(熟練)夫婦にはナンセンスかも。
その応えは、現世での諸事情があるだろうから、「No!」と言う人もいるだろう。
それはそれで仕方がない。
双方「Yes!」が気持ちいいけど、双方「No!」でも悪くない(それも人生)。
でも、片方が「Yes!」で片方が「No!」だったら・・・なんか嫌だな(笑)。
来世での再婚は希望しないまでも、「亡くなった連れ合いには天国に行ってほしい」と願う人は多いのではないだろうか。そして、天国での再会を願う人も。

「生きているうちに、もっと相手のことを愛すべきだった」
私の経験では、パートナーに先立たれた人の中にはそんな後悔を抱えている人が多いように感じる。
日々の生活と、この社会に生き残るための戦いに追われてばかりの人生では、そんな心のゆとりすら持てない。
でも、ちょっと小休止して立ち止まってみよう。
そして、結婚当時を思い出し、自分を見つめ直してみよう。
自分にとって本当に大切なものを、もう一度探してみたらどうだろうか。
明日から・・・イヤ、今からでも心を入れ替えることはできる。
パートナーへの接し方を変わればお互いの人生も変わる。
そして、「生まれ変わっても一緒になりたい」と思えるようになる・・・といいね。

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