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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2006年分

特殊清掃「戦う男たち」

命の選択

今年の夏は短いように感じる。
長かった梅雨が明けてからも、グズついた天気が多かった。
日照不足のせいで野菜や果物も作柄がよくないらしく高値が続いている。
普段は食べたくない野菜でも、高値がつくと急に食べたくなる。不思議だ。
本当に食べたいのは野菜ではなくて、金銭価値なんだろう。

例によって、今年も全国各地で水の事故が多発している。
命の洗濯のつもりで出掛けたレジャーが一変するときだ。

ある中年男性が溺死した。
家族で海水浴に出掛けた先で。
検死から帰宅した遺体は全裸でビーチの砂にまみれていた。
遺体を前に妻子は呆然、泣くに泣けない様子だった。
ここでも、楽しいはずの夏休みが一変していた。
体格のいい故人は、泳ぎには自信があったのだろうか。
それとも、気をつけていたのに波に流されてしまったのだろうか。
ふざけて遊び過ぎたのかもしれない。
どちらにしろ、海に入ったことが命取りになってしまった。

まず、身体のあちこちに着いた砂を取り除かなければならなかった。
これは並の作業で済んだ。
しかし、髪の毛にビッシリ入り込んだ砂をとるのが大変だった。

始めは、クシで髪をとかしながら砂を掃い除けようとした。
すると、砂だけではなく髪の毛自体がバサバサと抜け落ちてきた。
頭皮がかなり弱っているらしかった。外見は何ともなかったのに。
そのままやり続けると砂は除けても髪もなくなる。
とりあえず、その方法は中止。

「どうしようかなぁ」と思案しながら、どうするかを妻に相談。
気が抜けたようになっている妻は言葉を発することができず、私の問い掛けに返事をするのが精一杯のようだった。
気持ちは分からないでもかったが、いくら話してもラチがあかず困った。
遺族の希望を汲みながら、私が主導してやるほかないと判断。
やはり、頭が砂だらけのままでは偲びない。
しかし、頭髪が抜けてしまってはどうしようもない。
手間はかかるけど、水で洗い流してみることにした。
作業的には大がかりになり結構な時間を要したが、水流(水圧)のみを使って砂を流し取る方法は抜群にうまくいった。
我ながら満足した。

きれいになった故人には、普段から家で着ていた楽な服を着せた。
何を着せるか家族がハッキリしないので、私なりに熟慮して決めさせてもらった。

生前のままに戻った故人を見て、色々な想いが一気に噴出してきたのだろう、今まで寡黙・無表情だった妻子はいきなり号泣し始めた。
その場にいて言葉がでなかった。
気の毒に思いながら、俯いているしかなかった私。

楽しいはずの海水浴で、大事な夫・父を亡くしてしまった家族。
一家の大黒柱をいきなり失った家族には、その後どんな人生が待っているのだろう。
少なくとも、残りの夏休みが楽しいものにならないことは容易に想像できた。

人の死には色々なケースがある。
事故死の場合、自らの選択が死に向かわせているように思えることが多い。
本人は、死なないことを信じて疑わないのに。

命の選択。
人生は選択の繰り返し、選択の積み重ね。
小さな選択がその後の人生を大きく変えることもある。
選択の先にあるものを、誰かが教えてくれると助かるんだけどね。

それにしても、私は、あの時なんで死体業を選択してしまったんだろう。
んー、分からん!

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