特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2006年分
特殊清掃「戦う男たち」
探し物(中編)
依頼者の女性は、母親の遺骨探索を私に頼んだことを他の親族には知られたくないようだった。
どんな事情があるのか分からなかったけど、他の親族の手前、何かと神経を使う仕事になった。
作業は、覚悟していた通り過酷なものとなった。
「ビーフシチュー」を彷彿とさせるレベル。
腐敗粘土をすくっては解して骨を探す。
ひたすらそれの繰り返し。
腐敗粘土は軟らかいモノから硬いモノまである。それらを一切合切すくっては中を探ったのである。
腐敗粘土をほぐすのは手作業。
小骨を探す細かい作業に道具は使えない。
自分の視覚と手の感覚だけが頼りだった。
もちろん、便器の中にも手を突っ込んだ。
「ウ○コor腐敗粘土、どっちがマシかなぁ」等とくだらないことを考えながら(過酷な現場には、くだらない思考が必要)。
そんな私の手(もちろん手袋装着)は汚物でヒドイことになっていた。
例によって食べ物に例えてしまうが、糠床を混ぜた後の手みたいに。
「俺って、よくこんなことができるよなぁ」
自分に呆れるような、自分が惨めなような、自分を褒めたいような、何とも言い難い気分だった。
私は、プレッシャーと疲れを感じていた。
特掃作業の結果として骨を見つけた経験はあるものの、始めから骨を探すことが目的の作業には独特の重圧を感じていた。
そして、私の念いとは裏腹に、いつまでやっても骨らしきモノは見つからない・・・残りの汚物はだんだん少なくなっていく・・・。
焦りからか、ウジが何度も骨に見えてしまい悔しい思いもした(ここでもウジにやられっぱなし)。
途中から、私は毛髪を取り避けた。
毛髪なら汚物の中にたくさんある。
「骨がでてこなかった場合の代替物にできるかも」と考えたのだった。
結局、残念ながら、最後まで骨がでてくることはなかった。
私が見逃した可能性も否定しきれないけど、「やれるだけのことはやった」と自分を納得させた。
私は集めた毛髪を洗剤で丁寧に洗った。
脂の悪臭がなかなか落ちなくて、何度も洗い直した。
私は女性に電話をして、先に骨が見つからなかったことを報告した。
そして、確認のため近いうちに現場を見に来てほしい旨も。
女性は、労いの言葉をかけてくれながらも、落胆していた。
私は申し訳ない気持ちになったが、「仕事の成果は約束していないから・・・」と、内心で言い訳をして自分をごまかした。
正直、この仕事はこれでおしまいにしたかった。
しかし、女性と話しているうちに「他に役に立てそうなことがあれば言って下さい」と話していた。
女性に泣かれると弱い・・・。
つづく