特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2006年分
特殊清掃「戦う男たち」
探し物(後編)
何日か後、依頼者の女性と現場で待ち合わせた。
女性が、現場となった故人(母親)の家を訪れるのは初めてとのこと。
女性には敷居が高過ぎて、今までずっと来ることができなかったらしい。
女性と故人は、それだけ疎遠な関係だった。
初めて顔を合わせた我々だったが、初対面のよそよそしさはなかった。
共に戦う同士みたいな感覚。
骨を見つけられなかったことをあらためて詫び、毛髪を取っておいたことを初めて知らせた。
私が好意でやったことでも、女性の気分を害してしまうことも有り得るので、慎重に話した。
幸いなことに、女性は喜んでくれた。
そして、また泣き始めた。
白い綿に包まれた毛髪を握り締めて、絞り出すような声で「お母さん、お母さん・・・」と。
女性には、それなりの過去があった。
親の言うことにも耳をかさず、若い頃には放蕩の限りを尽くしたらしい。
ここでは明かせないが、女性の身体的特徴もそれを物語っていた。
家族にも随分と迷惑をかけたであろうことは容易に想像できた。
そのせいで、親族からもやっかい者扱いされ、ずっと疎遠にされたまま。
身内の中で完全に孤立しており、葬式にも参列させてもらえなかったそう。
女性が本当に欲しかった物は、遺骨なんかじゃなく母親への謝罪と親孝行をするチャンスだったように思えた。
この半生、それを探し続けて生きてきたのに、ずっと見つけることができなかった。
私は、例によって勝手な自論を展開した。
「お母さんは○○さん(女性の名前)のことをとっくに赦してくれていると思いますよ」
「だから、腐乱してまでも○○さんが来るのを待っていてくれたんじゃないですか?」
「お母さんが腐ってくれたお陰で、他の親族に見つからずに来ることができた訳ですよね」
「きっとお母さんは、○○さんに重荷を降ろすチャンスをくれたんですよ」
「○○さんの将来を大事に想ってね」
失礼な暴言なのか、いいアドバイスなのか分からないようなコメントになったが、女性は泣きながら頷いて聞いていた。
「親孝行、したい時に親はなし」
「親の心、子知らず」
生前は大したことはできなくても、とりあえずは親より後に死ぬことが大事な親孝行だと思う。