特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2006年分
特殊清掃「戦う男たち」
人間のクズ
この季節、朝夕には鈴虫の声が聞かれるようになってきた。
昼間は、まだ蝉が威勢よく鳴いている。
蝉は数年間、陽のあたらない地下生活をした後、最後の一週間だけ明るい地上にでて最期の時を燃焼・満喫するらしい。
蝉の一生には自分と重なる部分がある。
今は陽のあたらない生き方をしている私だが、いつかは陽のあたる明るい日が来るもしれない?
でも、仮にそんな日が来ても「長続きはしない」と思った方がいいかもね。
特掃の依頼が入った。
現場は古い一戸建、埃をかぶった生活用品(ゴミ?)が山積み状態。
昼間なのに家の中は薄暗く湿っぽい感じで、どことなく不気味な雰囲気だった。
いつもの様に私は、誰にでもなく「失礼しま~す」と言いながら奥へ進んだ。
汚染場所は奥の和室だった。
汚腐団は、例の木屑のような茶色の粉(以降、腐敗屑と呼ぶ)に覆われ、所々に小さな山ができていた。
「死後2~3ヶ月経過」「遺体は白骨化」ということは聞いていたので、この状況は想定の範囲だった。
周辺にはウジの死骸が無数に散乱(ハエの死骸は少なかった)。
前にも書いたが、ウジの死骸はサクサクの菓子のよう。
具体的に説明すると、柿の種と米菓子をかけ合わせたみたいなもの(分かるかなぁ)。
それをサクサクと踏みながら、更に近づいてみた。
すると、腐敗屑の中に無数の何かがシャワシャワと動いている。
「ん!?」
更に近づいてみると、それは得体の知れない虫の大群だった。
世間では見たこともない虫、名前も分からないその虫は、腐敗痕の上を腐敗屑と混ざり合いながらワサワサと動いていた。
「何だろう、この虫は・・・」
「ウジ・ハエを前座に、真打登場か?」
私にとっては「気持ち悪い」というより「興味深い」光景だった。
子供がカブト虫でも眺めるみたいに、私は目を輝かせて?しばらくその虫を眺めていた。
しかし結局、それが何の虫で、何のために居て、何をしているのかは分からなかった。
ずっと眺めてばかりいても仕方がない。
私は見積作業を開始した。
特掃作業は翌日になった。
ウェットな現場が大半の特掃業務、乾いた汚染箇所を片付けるのは新鮮だった。
気のせいか、熟成された腐敗臭もやわらかく感じられた。
私は、得体の知れないその虫と腐敗屑とを一緒にすくってサラサラと汚物袋に入れた。
腐敗屑には頭髪が絡み合っており、この原形が人間だったことを思い起こさせた。
腐敗屑は、腐敗液や腐敗粘土とは違って簡単にすくい取ることができ、爽快感すら覚えたくらい。
生きていても死んでいても、湿っぽいよりカラッと乾いていた方がいい。
ここでは当然、畳や床板もバッチリ汚染され腐っていた。
でも、これらも乾いていたので作業はしやすかった。
それらも全て撤去し、作業は無事に終了。
私はこの仕事を通じて、「人間も、腐って虫に食われれば屑になるんだな」としみじみ思った。
そして、屑になった人体は風に吹かれて消えていく。
現在の埋葬法では無理な相談なのだろうが、自分が死体になった時も、焼かないで自然の腐敗にまかせてほしい。
虫にたかられたって、虫に食われたっていい。
孤独死+腐乱では困るけど。
死んだら、私も人間の屑になりたい・・・
え?死ぬ前にもうなってる?