特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2006年分
特殊清掃「戦う男たち」
目・鼻・口
最近でもたまに遭遇するが、私が死体業を始めた頃は口や鼻から腹水がでている遺体が多かった。
私が「腹水」と呼んでいるものを分かり易く説明すると、「胃に溜まった腐敗体液」、あるいは「胃の内容物が腐敗したもの」。
色は、黄色っぽいものから茶色っぽいものまである。
どれも臭いのだが、色が濃いほどその臭さもキツい。
特掃現場の腐乱臭とはまた違った臭さだ。
腹水が溜まっている遺体は、だいたい腹部が張って口腔から異臭がしている。
腐敗ガスが腹を膨脹させ、それが少しずつ口から漏れているのだ。
経験を積めば、すぐにそれと分かる。
そして、それが分かると未然に腹水トラブルを防ぐ死後処置が施せる。
遺体と対面する時には既に口や鼻から流れ出してていることもある。
または、流れ出てはいなくても、今にも吹き出そうな遺体もある。
腹水トラブルの一つ。
まだ経験が浅い頃は腹水の有無をよく観察せず、不用意に遺体を動かしてしまい、口から腹水を噴出させたことが何度かある。
更には、その様を目の当たりにした私も「もらいゲロ」に似た感覚でオエッ!となってしまうことも。
遺族の前でこれをやってしまうと、非常にマズイ。
遺体の口から臭いガスと茶色い液体がグシュグシュ!ブシュブシュ!と音をたてて吹き出す様を想像してもらえると分かると思うが(想像できる訳ないか)、辺りには悪臭が充満するし、遺族もビックリ!して遺体を怖がるようになってしまう。
もっとヒドイ場合は、口な鼻の中に小さなウジが這い回っている。
彼等は、口や鼻の内腔を食っているのだ(これは想像しない方がいいと思う)。
また、目から体液が流れていることもある。
これがまたいけない。
遺体が涙を流している訳でもないのに、遺族には泣いているように見えてしまうからだ。
その状況は、遺族の悲嘆に追い撃ちをかけてしまう。
私の場合、「故人が泣いている」と言って悲しむ遺族にはあえてクールな説明をする。
「あくまで、死後変化の一過程」と。
神経を弱めている人に霊的な話や精神論は禁物だし、こんなケースではそんな無責任なことを言ってはいけないと思っている。
しかし、そこで目から流れる体液を止められなければ何の意味もない。
口ばかり達者で、理屈ばかり通しても遺族の悲嘆を軽くすることはできない。
やはり、口にも勝る経験と技術が肝心。
こういった遺体のトラブルを防ぐためにも、キチンとした技術を用いた死後処置を施しておくことが大切である。
一見、可哀相な事をしているような感を受ける死後処置の作業。
自分でやっていて痛々しく思えることもある。
ただの自己弁護かもしれないが、同じ仕事をするにも故人を思いやる気持ちを持っているか否かで、死体業の価値が大きく変わってくると思っている。
一般の人には、その辺のところがなかなか理解してもらえないんだけどね。
まぁ、どんなに考えたところで、目から涙・鼻から鼻水・口から唾がだせているうちのことか。