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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2006年分

特殊清掃「戦う男たち」

ハイ、チーズ!

写真を撮る時の決まり文句、「ハイ、チーズ」。ひょっとして、今は死語?
とにかく、写真は笑顔がいい。

葬式の時に遺影(写真)を掲げる家は多い。
今や、葬式に遺影を用意するのは常識みたいになっている。
ある程度の年配者になると、自分の葬式を考える人も多く、遺影にも使えるようなきれいな顔写真を撮っておく人も少なくないように思う。

私が知る老人の一人は、毎年の正月に撮る写真を遺影にも使えるように撮影して家族に残している。
正月は毎年キチンと和装をするから、ついでに遺影用の写真も撮っておくのだ。
新年に希望を持ちながらも、自分の寿命を考えて、近いうちに来るであろう死の準備を粛々と整えておく。
こういった心構えを私も見習いたいと思う。

一般的に、遺影の写真は行楽などで普通に撮ったスナップ写真を使うことが多いようだ。
フィルム(ネガ)がなくても大丈夫だし、写真が小さくても着衣が正装でなくても問題はない。
小さく写った顔は拡大できるし、着衣は切り貼りで着せ替えることができるから。
便利な分、何だか味気ないような気もする。

学生時代の友人から食事に誘われた。
招かれた所は、高級とまではいかないが、わりと値段も高めのレストランだった。
勤務先の会社で昇進したらしく、随分と機嫌もよく饒舌だった。
その肩書がついたのは、同期の中でも早い方らしく、本当に嬉しそうだった。
大きな組織で働いたことのない私には分からない感覚だ。
こういう時は、少々おだてて祝ってやるのがマナーなのだろうから、白々しいくらいに誉め倒しておいた。

酔いもまわり、気持ちが大きくなってきた友人は、「今日は俺がおごるから遠慮するな」と、高いワインや食べ物を頼みはじめた。
安い居酒屋しか知らない私は、何がでてくるのかちょっと期待した。

ほどなくして、私達のテーブルに小さな円柱形の木箱がでてきた。
木箱には横文字が入り、全体的に濡れていた。
友人は、慣れた手つきで木箱を開けて中の白い物を取り出した。

「ハイ、チーズ!」
「おー、チーズか!」(旨そう)
「俺、ワインとチーズにはうるさいんだよ」
「食通なんだな」(おだてといてやるか)
「これは○○産の○○チーズで、すごく旨いんだよ!」
「へぇ~」(高そうだな)
「この匂い、嗅いでみろよ」
「どれどれ・・・グホッ!」(何だ?この臭いは!)
「これを臭く感じるようじゃまだまだだな」
「そうか・・・」(この臭いは・・・)
「んー、いい匂いだ」
「・・・!」(腐乱臭!)
「この匂いがたまんないんだよな!」
「た、確かに・・・たまんないな」(ホントにたまんねぇよ!)
「モグモグ・・・旨い!」
「よかったな・・・」(よく食えるなぁ)
「ん?遠慮しないでオマエも食えよ」
「ああ・・・」(食えない!)
「あれ?ひょっとして、この匂い苦手か?」
「んー・・・あまり得意じゃないな」(慣れた臭いだけど)
「そんなんじゃ、通になれねぇぞ」
「そうか・・・」(通になれなくたっていいよ)
「○○産の○○チーズはな、良質の脂肪分が高くてコクがあるんだよ」
「へぇ~」(別の物が頭に浮かんでしまう)
「それだけデリケートでな、常温に置いたままにすると溶けてくるんだよ」
「なるほど~」(分かるような気がする)
「やっぱ旨いなぁ、口に入れると溶けるよ」
「・・・口で溶けるのか・・・」(なんか凄そうだな)
「子供じゃないんだから、オマエも一つくらい食ってみろよ」
「俺はやめとくよ」(子供でもいい)
「もったいねぇな~めったに食えないのに」
「俺の脳が、食わない方がいいって指令を出してるんだよ」(一生食えなくたっていいよ)
「何?訳わかんねぇこと言うなよ」
「まぁ、鼻と胃の問題じゃなくて、脳が拒否してる訳よ」(脳、No!)
「変なヤツ・・・あー旨かった!」
「御馳走様」(あー臭かった!)
「オマエ、食ってねぇじゃん」
「脳が満腹になったよ」(コイツにも話さない方がよさそうだな)

「でも、ある意味オマエは偉いよなぁ・・・よくやってるよ、その仕事」
「全然、偉くなんかないよ」(色々あるんだよ)
「所詮は、俺の代わりなんて、会社にも社会にもゴロゴロいるんだよ」
「そんなことないだろぉ、オマエは出世頭なんだろ?」(でも、代わりはいくらでもいそうだな)
「でも、オマエの代わりができる人間なんて、そうはいないだろ?」
「だろうな・・・自分で言うのもおかしいけど」(いいこと言ってくれるじゃん)
「いくら金を積まれたって俺にはできねぇよ」
「それが普通さ」(ホントそう)
「死体が腐った臭いってスゴイんだろ?」
「まぁな・・・」(食事の場でその質問をしてくるとは、なかなかいい度胸してるな)
「例えて言うと何の臭いに似てる?」
「んー、食通はそんなこと知らない方がいいと思うな」(オマエが食ったばかりのモノだよ!)
「もったいつけないで教えろよー!」
「聞いて後悔するなよ?」(仕方ない、教えてやるか)
「しない!しない!」
「○○産の○○チーズにソックリな臭いだな」(言ってしまった)
「えっ!?・・・」
「あれ?ひょっとして、その臭い苦手か?」(苦手に決まってるか)
「ゲプッ・・・」
「オマエは食通、俺はショック通」(ハハハ)
「・・・わりー、ちょっとトイレに行ってくる」
「胃の高級チーズを粗末にするんじゃないぞ」(トイレ掃除は得意だけど、俺にやらせんなよ)

写真の話に戻る。
私は、わりと写真に写るのが好きな方だ。
そして、たいていは笑顔で写ることにしている。
たいして楽しい気分でない時でも。
知人の結婚式、新郎新婦と一緒に撮った写真で一番笑っていたのは自分だったこともあるくらい。

写真って、思い出として後から見るもの。
笑顔の自分を見ると気持ちが和むし、ちょっとは楽しい気分になる。
そして、その時また笑顔になれる。

人の笑顔っていいもんだ。
残された人生を歩くときも、来たるべき死を覚悟するときも、満面の笑顔でいたいもんだ。

何でもいいから、まず笑顔。
「ハイ、チーズ!」

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