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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2006年分

特殊清掃「戦う男たち」

死者への使者

よく、死がやって来ることを「お迎えが来る」とか、死を覚悟することを「お迎えを待つ」等と言う。

その「お迎え」とは、一体何を指しているのだろう。
もともとの語源は、何かの宗教や思想にありそうだが、私は、たまに耳にするこの言葉に苦笑いすることが多い。

ちなみに・・・
業界では(首都圏だけかもしれないが)、亡くなった人を病院から搬出することを、「病院下げ」「遺体下げ」「下げに行く」等と、「下げる」という言葉で表す。
「運ぶ」とか「引き取る」等とは言わない。
何故か、「下げる」と言う。

その言葉からは、「いならくなったモノを片付ける」といったような意味を感じるが、正確な語意は分からない。
多分、これにも語源があり、何らかの意味があるのだろう。

遺体搬送で病院に行くと、ほとんど決まったパターンで作業は進む。
作業的には難しい仕事ではなく、どちらかと言うと単純作業に近い。
肉体な力もあまり必要ではない。
力が要るのは、遺体を担架に積む時と、担架から降ろす時くらい。

依頼が入ると、まずは病院に急行。
電話連絡が入ってから30分以内、遅くても1時間以内で病院に到着するのが業界の常識。
したがって、電話が入ってからはかなり慌ただしく動くことになる。
救急車じゃないんだから(全くその逆)、本来はそんなに急ぐ必要はないように思えるだろうが、ま、その辺は裏事情があるということで留めておこう。

初めて行く病院では、要領が分からずにモタモタしてしまうこともある。
霊安室や遺体搬出口は目立たない所にあることがほとんどで、しかも、仕事が仕事だけに、表玄関から堂々と入って誰かに尋ねる訳にもいかない。
そうこうしながら、ストレッチャーを引っ張って目的の病室、もしくは霊安室へ。

以前にも書いたが、病室に行く場合は他の患者やその家族の視線が気になる。
死人を迎えに来る私が、歓迎された者ではないことは明白。
何も悪いことをしている訳でもないのに居心地が悪い。
自然とコソコソしてしまう。

そんな私は、死神の遣い?
死んで間もないのに、いきなり現れたかと思ったら、感情がないかのように機械的に遺体を連れ去っていく・・・そんな姿が死神の使者のように見えてしまうかもしれない。

ほとんどの遺族は、沈んだ雰囲気の病室で私の到着を静かに待っている。
そんな遺族への第一声はいつも同じ。
「この度は御愁傷様でございます」
と一礼。
遺族も、私に深々と頭を下げる。
そして、第二声。
「お迎えに参りました」
そして、遺族からは、
「おじいさん、お迎えが来たよ」
「おばあさん、お迎えに来てくれたよ」
だいたいこんな声が聞かれる。

私も遺族も「お迎え」という言葉を使う。
そして、ある時気づいた。
「お迎えって、俺のことか?」
「何か、イヤな役回りだなぁ」
それからというもの、私は、お迎えの仕事に何とも言えない苦笑い的なものを覚えるようになった。
「苦笑い」と言っても、あくまで自分に対してであることを釈明しておく(不謹慎だと思わないでほしい)。
ま、何とも因果な仕事だ。

たまには私も、気持ちがウキウキするような相手を迎えに行きたいもんだ。
・・・そんな歳でもないか。

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