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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2006年分

特殊清掃「戦う男たち」

社会的動物

「赤信号、みんなで渡れば恐くない」
「青信号、誰も渡らず渡れない」

個性より協調性、単独行動より団体行動が重んじられる世の中。

「出る杭は打たれる」
「郷に入らば郷に従え」

言うまでもなく、日本は議会制民主主義の国。
何事も多数決で決まる。
多少のストレスがかかっても、大多数の意見や考え方に埋もれていた方が安全である。
学校教育も、通り一辺倒の人間を作ることを最優先しているようにしか思えない。
そして、よくも悪くも、大多数に合わせられない人間は、つまハジキにされる。

小さな老朽一戸建。
狭い間取りの奥の部屋に腐乱痕があった。
部屋の戸を開けると、もぁ~っといつもの腐乱臭が覆ってきた。
「まったく、この臭いはいつ嗅いでもかなわねぇなぁ」
マスクをしていなかった私は、服の袖口で鼻と口を押さえた。

通常は、最もヒドイ汚染物を先に撤去するのだが、ここではそれができなかった。
この部屋でヒドク汚染されていたものは、布団・カーペット。
しかし、半ゴミ屋敷状態のその部屋では、布団もカーペットも、生活雑貨(ゴミ)に埋もれてしまってどうにもならなかったのだ。

仕方なく、私は濃い腐乱臭の中、ひたすらゴミを撤去した。
いたる所にウジの死骸が潜んでおり、それはそれでかなり汚かった。

ほとんどのゴミを部屋から出すと、汚染の全体が見えてきた。
当初の予想以上に汚染範囲は広く、汚染度も深刻だった。
全体が見えないうちはノーマルだと思って踏んでいた床も、実は汚染済みだった。

「おーっ?こりゃヒドイなぁ」
推定された死後経過日数からは、想像し難い汚染の広がり方だった。

私は、最後に残ったヤバイ部分に手をつけた。
汚腐団の一枚一枚を慎重に掴み上げ、ゆっくり袋に入れた。
一枚一枚を持ち上げる度に、自然と「お゛ーっ!」という悲鳴?がでた。

それでも、掛布団・毛布まではまだよかった。
敷布団を見たときは、「お゛ーっ!でたなぁっ!」と驚愕の声。
それは、汚腐団の中の汚腐団だった。
腐敗液をタップリ吸った敷布団は黒光りしそうなくらいで、小さなウジが無数にくっついていた。

参考までに・・・
ウジの大きさを米粒くらいと想像する人が多いと思う。
なかなか見る機会はないと思うけど、初期のウジは極小!
至近距離でないと、肉眼では確認できないくらい。
逆に成長したウジはデカい!
米粒の何倍にもなる。
こんなのが群れを成している光景を見ると、なかなかの迫力を感じる。

私は、心の中で深呼吸して(実際に深呼吸する勇気はない)、気持ちを落ち着けてから敷布団の撤去にとりかかった。

敷布団をめくり上げてみて、更に「お゛ーっ!!」。
表面より裏面の方がヒドク、ネトネトの腐敗粘土がベットリと溜まり、床には無数のデカいウジがいた。

「うぁ゛ーっ!なんてこった!」
私は、動きを止めた。
そして、この後の作業手順を考えた。
慎重に、慎重に。

スーパー汚腐団を何とか袋に詰めた私は、一息入れながら床のウジを眺めた。
よく見ると、ウジ達はみんな同じ方向に逃げていた。
丸々と肥え太った身体を波うたせながら、きれいに一定方向を向いて動いていたのだ。

「ん?おもしろい光景だな」
「一匹くらいは別方向に逃げるヤツがいてもいいのに・・・」
「ウジの社会にも色んな柵や事情があるのかな?」

身の危険を感じた本人達(本ウジ達?)は急いで逃げているつもりなのだろうが、そのスピードがウジの限界だった。
私のスピードに敵う訳がなく、あえなく御用。
悲しい結末が待っているだけだった。
皆とは違う方向に逃げていれば、助かったかもしれないのに・・・。

私は、闇雲に個性を主張すればいいと思っている訳ではない。
個性と個人のエゴを混同してはいけない。
自分を自制できないことを、個人の自由だと勘違いしてはならない。

また、協調性を発揮することと回りに妥協・迎合することは違う。

自由に個性を発揮しながらも、社会の秩序をキチンと守る。
今の世の中、そんな生き方が大事だと思う。

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