特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2006年分
特殊清掃「戦う男たち」
脂肪で死亡
世の中には、好きなだけ飲み食いしても体重が変化しない、羨ましい体質を持った人がいる。
私も、若い頃はそうだった。
二十歳前後の頃は、一食の御飯の量が二合位、多いときは三合の御飯をペロリとたいらげていた。
それでも、体重は増えることなく、わりとスリムな体型を維持できていた。
標準体重を少し下回るくらいで。
ところがである。
20代後半から、少しずつ何かが狂い始めた。
飲み食いした分が、体重に乗ってしまうようになったのだ。
みるみるうちに標準体重を突破したかと思うと、あれよあれよと言う間に「やや肥満」に。
気がついた時には、「肥満!」と太鼓判を押されるような始末になっていた。
私にとって、飲み食いは大事な楽しみの一つ。
大袈裟なようだが、生きる喜びの一つなのである。
特に、酒・肉料理・甘味には目がない。
焼肉+ビール、食後にアイスクリームなんて最高だね!
でも、身体には最悪・・・。
(しかし、飲み食いぐらいしか楽しみがないなんて、寂しい人生だね。)
腐乱した故人も、私と似たような趣向の持ち主だったみたい。
医師からはカロリー制限とダイエットを指示されていたらしい。
「腐乱場所は、浴室と脱衣場」と聞いていたので、私は浴室の方にウェイトを置いて行った。
風呂場の汚染は、これまた独特で、インパクトのある現場ばかり。
今までの経験から、どうしても風呂場の汚染ばかりが頭に浮かんできた。
ところが、汚染のほとんどは浴室の前の脱衣場が占めていた。
風呂場の汚染に比べれば少しはマシだったが、その汚染はジュニアヘビー級。
「うへぇー、こりゃヒドイなぁ」
と、いつもの一言。
作業は単純。
腐敗液を吸い取りながら、腐敗粘土を削り取る。
ひたすら、その繰り返し。
床にある、バスマットや細かい生活用品も、腐敗液・腐敗粘土にまみれてヒドイことになっていた。
そんな汚物を一つ一つ持ち上げて取り除く作業には、たまらないものがある。
そんな中、床の片隅に四角く盛り上がっている所があった。
「ここにも何かあるな」
私は、躊躇うことなく、それに手を出し、そして持ち上げた。
ズシリとした重量感があった。
ボト!ボト!ボト!ボトーッ!!!
「うげー!何だこりゃ?」
持ち上げたモノの中から、淡黄色の腐敗脂とウジが大量に溢れ落ちてきたのである。
その量と言ったら、半端じゃなかった。
フライパンに入れたら揚げ物ができそうなくらい(想像しなくていい)。
ひょっとしたら、故人は風呂上がりに体重計に乗ったところで倒れたのかもしれない。
そして、誰にも発見されないまま溶けていった・・・。
故人が、床に広がる自分の脂の量を見たら驚くに違いない。
そして、思うだろう。
「真剣にダイエットするべきだった」と。
私は、ウジのオイル漬を片付けながら考えた。
「食欲って、どうやったら抑えられるんだろう」
え?
食事前に特掃現場を思い出せばいい?
残念ながら、そのくらいことじゃ私の食欲は微動だにしないんだよねぇ。・・・だけど、一般の人には効果があるかもね。
そう!
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