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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2006年分

特殊清掃「戦う男たち」

遺志

遺体処置と遺品処理の作業で、ある家に訪問した。

亡くなったのは高齢の女性。
行年は、平均寿命を越えていた。
安らかな表情、身体は小さくとても痩せていた。

遺族は、故人の着衣を着替えさせてほしいと要望してきた。

ちょっとしたコツはいるが、作業的には簡単なもの。
だだ・・・私は、死んでいようが高齢だろうが女性は女性として尊重する主義。
故人の羞恥心に配慮したい旨を伝えた上で、遺族の指示を仰いだ。

遺族は私の気持ちを理解してくれたものの、困った表情を見せた。
そして、「これが着せ替えてほしい着物なんですけど」と言って、古ぼけた箱を私に手渡した。

それを受け取った私は、神妙な気持ちになった。

箱の蓋に「死んだら着せて下さい」と書いたメモが貼ってあったのだ。
何かのチラシの裏に書かれた文字は、生前の故人が書いたものだった。

女性の気丈さに感心と切なさを覚えた私。
「これは・・・着せ替えない訳にはいきませんね・・・」
「私が来たのも何かの縁でしょうから、できるかぎり配慮して着せ替えをさせていただきます」

私は、箱を開けて中の着物を取り出した。
中身は木綿の死装束だった。
故人の手作りらしく、お世辞にも立派とは言えない品物。
しかも、だいぶ以前に作っておいたのだろう、全体的に古く黄ばんでいた。

幸い、故人の身体は小さく痩せていたし死後硬直も軽かったので、肌を露にすることなくスムーズに着せ替えることができた。

故人の希望を叶えることができて、遺族も安心したようだった。
その後、厳粛ながらも和やかな雰囲気で納棺を滞りなく済ませた。

次に、私は遺品回収作業にとりかかった。
荷物はきれいに整理整頓されており、タンスも押入もキチンと整えられていた。
その様相からは、故人の几帳面な人柄がうかがえた。

私は、遺品の一つ一つを手に取りながら見分を始めた。
すると、ちょっと困ったことが発生。
タンスの一段一段、収納箱の一つ一つに例の遺言メモが貼ってあったのだ。

「○○に使う」「○○で使う」「○○にあげる」etc。
「不要品」「捨てる」といった類のメモは一切なく、全て再利用するのが当然といった感じだった。

遺品処理・遺品回収を平たく言うと、「廃品回収・不用品処理」だ。
しかし、故人にとって残した遺品は、廃品・不用品ではないのだろう。

これには遺族も困っていた。
「○○にあげる」とされる品物は、実際の○○さん達は欲しくない不要なモノ。
故人の想いに反して、荷物のほとんどが、そんな様なモノだった。

「んー、困った」
処分するしかない荷物。
しかし、故人の遺志を無視するのも偲びない。

例によって、私は勝手な思いを巡らせた。

「故人は、残される人達になるべく迷惑をかけないように逝きたかったのではないだろうか」
「遺族に負担をかけるくらいなら、遺品を処分しても許してくれるのではないだろうか」
「故人の思いを真摯に受け止め、できるだけ使えるモノを探して、それでも残ったモノは処分しよう」

その考えを遺族に伝えたら、そうすることになった。
そして、遺族に遺品を選別してもらった。
その間、私は部屋を出て待っていた。

部屋から聞こえる話し声から、故人の思い出話に花が咲いていることが分かった。
部屋には、故人を納めた柩もあったので、故人に話し掛けるような声も聞こえてきた。
笑い声もあり、和やかなものだった。

結局、少しの遺品を残して、大部分が不用品になってしまった。
遺族も故人に申し訳なさそうにしていたが、仕方がなかった。

人に寿命があるように、モノにも寿命があると思う。
モノが溢れる昨今は、寿命をまっとうする前に用無しにされるモノが多い。
しかし、故人が残した遺品はどれも平均寿命を越えているように思えた。

遺族達は、柩の窓から見える安らかな寝顔の故人に、「おはあちゃん、ありがとう」「おはあちゃん、ごめんね」と声を掛けていた。

上の方から、「気にしなくていいよ」と言う声が聞こえてきそうな温かい雰囲気だった。

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