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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2006年分

特殊清掃「戦う男たち」

一期一会

30代の男性。
軽自動車で出勤途中だった故人は、生きて帰宅することはなかった。
残された妻子の悲しみは、いかばかりか・・・。

警察の霊安室。
納体袋を開けると、プ~ンと血生臭い臭気があがってきた。
そして、目に飛び込んできた遺体を見て、私は絶句した。

遺体は損傷が激しく、死後処置をどうこうできるレベルではなかった。
腕や脚は不自然な向きに曲がり、何本かの指も引きちぎれていた。
胴体は押し潰され、大きく口を開けた各所のキズから得体のしれない何かがハミ出ていた。
頭も潰れ、顔も既に人間ではなくなっていた。
飛び出した眼球に寒気を覚えた。

言葉は悪いが、ミンチ状態。
「血だらけ」と言うか「肉だらけ」と言うか、それは酷い有様だった。

「せめて、顔だけでも見えるようにできないか」

そう思って納体袋を開けた私だったが、手の施しようもなく黙って再び閉じるしかなかった。

故人には、奥さんと幼い子供がいた。
とても話ができる状態ではなく(話をする必要もなく)、私にできることは、空気のような存在になることくらいだった。

身元確認のため、奥さんは遺体を見たらしい。
遺体慣れした私、あかの他人の私ですら目を背けたくなるような損傷凄まじい遺体。
それを見せられた家族は、とても普通ではいられなかっただろう。

故人の車は、交差点を信号待ちしていた。
そこに、後ろから来た大型トラックが激突したのだった。
トラックは結構なスピードをだしており、ほとんど減速しないまま故人の車に衝突。
そして、故人の車を押し潰しながらビルの外壁に激突して止まった。

故人の車は紙屑のようにグシャグシャに潰れたらしい。
当然、故人の身体もコッパ微塵に。
ほぼ即死状態だったという。

それでも、トラックに衝突されてからビルに激突するまでは、わずかでも間があっただろう。
「アッ!?」と思った瞬間に、故人は何か思うことがあっただろうか。

私は、ふと、そんなことを考えた。

故人とその車がクッションになってくれたお陰で、トラックの運転手は無傷。
交通事故って、往々にしてこんなもの。
まったく、皮肉なものだ。

故人は、いつもの様に、いつもの時間で、いつもの道を通って勤務先に向かっていた。
そして、いつもと違う災難に襲われた。

「いってきます」
「いってらっしゃい」
毎朝と変わらない言葉を交わして家を出たはず。
それが、最期の別れになることは知る由もなかった。

「ただいま」
「おかえりなさい」
夕方になれば、いつもと変わらない言葉を交わすはずだった。
しかし、この家族には遺体と静かに過ごす時間さえ与えられない、寂しい別れが待っていた。

好きな言葉として「一期一会」を挙げる人は多い。
ただ、人の生死やその別れを考えると、簡単な気持ちでは口にできない言葉であるような気がする。

私も、真(深)の意味を学んだことはないが、好きな言葉の一つである。
ただ、その意味を初対面の人に当てはめてしまいがち。
本当は、いつも一緒にいる身近な人にも「一期一会」は当てはめた方がいいのだろうと思う。

生きていれば、色んな苦難に遭遇する。
このケースのように、何の前触れもなく無残な別れを強いられるようなこともある。

「時が経てば、全てが思い出になる」
「人生は夢幻」
とは言え、現実にはそれを背負って生きていかなければならない人達もいる。
そして、それが何時、自分にふりかかってきても不自然なことではない。

当たり前の日常、当たり前のように傍にいる人達に対して、たまに「一期一会」の精神を思い出してみるといいと思う。

・・・なんて偉そうなことを言っていても、人間関係の好き嫌いがなくならない私である。

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