Home特殊清掃「戦う男たち」2006年分女心Ⅱ(前編) ~独居女の悲哀~

特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2006年分

特殊清掃「戦う男たち」

女心Ⅱ(前編) ~独居女の悲哀~

統計によると、自殺者数の性別比は、だいたい男7:女3らしい。
私の経験からもそれは実証されている。
また、孤独死の数も男性の方が多いと思う。

自殺をする人間を一概に「弱い」とするのは軽率かとも思うが、生きることの本質においては男性より女性の方が強いのだろう。
平均寿命が男性より女性の方が長いこともしかり。
ちなみに、街で見かける浮浪者は、圧倒的に男性が多いことにも 何か共通するものがあるような気がする。

中年の女性が孤独死した。
離婚経験のある故人は、子供もいなかったらしかった。

「オシャレな人だった」
「上品な人だった」

遺族の言葉通り、部屋はきれいに整理整頓されており、インテリアもオシャレにコーディネイトされていた。

ただ、どんなにオシャレできれいな部屋でも、腐乱死体がだいなしにしてしまう。
腐乱の程度は酷かったが、汚染状態はシンプルだった。
主だった汚染は布団とベッドくらい。
それを撤去してウジ・ハエを始末してしまえば、見た目には普通の部屋になった。
「見た目には」というのは、「腐乱臭はバッチリ残っている」ということ。

遺族は、「いくつかの物を持ち帰りたい」と言う。
廃棄物が少なくなるのは私にとっても助かることなので、家財の選別を手伝うことにした。

その前に、消臭剤を噴霧し、窓を開け、悪臭を軽減させた。
それから、遺族にマスクと手袋を渡して、部屋に入ってもらった。
遺族は、あれこれと相談しながら捨てる物と捨てない物を仕分け始めた。
汚染物を片付けたとは言え、遺族は、腐乱部屋には入りたがらなかった。
その部屋は悪臭も強く、何よりも精神的に抵抗があるようだった。

そういう訳で、その部屋にある荷物の分別は私が代行することになった。
タンス・書庫・収納ケース・引き出し類の中身を一つ一つ確認。
そして、それらの物の必要or不要を隣の部屋で作業中の遺族に尋ねた。
必要な物は遺族のいる部屋に運び、不要な物は廃棄物袋にポイッ。

部屋には小さな仏壇があった。
家具調の仏壇で、特に汚れてもいなかった。
私は、遺族が見やすい所まで仏壇を移動して、その処分についての指示を仰いだ。

遺族は、仏壇を捨てるかどうか悩んだ。
「捨てたいのに捨てられない」と言った感じで。
アドバイスを求められた私は、あくまで個人的な見解であることを前置きしてから応えた。

「仏壇や位牌なんて、 ただのモノ」
「魂や霊とは関わりのない」
「家具やインテリアと同じ」
「物理的な存在を維持するには限界がある」
「したがって、捨てたって構わないと思う」

それを聞いた遺族は、「そりゃまた極端な考え方だなぁ・・・」と、割り切れない様子だった。

自論を吐いた私も、ほとんどの人には賛同を得られない理屈であることは承知していた。
後は、遺族の判断を待つしかなかった。

結果、位牌などの中身だけを持ち帰って、仏壇本体は廃棄することになった。
よくあるパターンの結論だ。

私は、仏壇の中身を丁寧に取り出し、一つ一つを遺族へ渡していった。
下部の引き出しからは、経本や予備の線香・ローソクなどがでてきた。

そして、その中に、布に包まれた細長いモノがあった。
手に取ると、ズシッとした重量感。
「多分、仏像だと思います」
「この大きさでこの重さだと、高価なモノだと思いますよ」
と調子のいいことを言いながら、うやうやしく布をめくってみた。

「ん?何だこりゃ!」
そこで私が目にしたモノとは・・・

つづく

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