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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2006年分

特殊清掃「戦う男たち」

ビッグウェーブ

人間であるかぎり、気分・感情に波があるのは自然なことだろう、
ただ、私においては、その波の高低差が激しいのが難点。
特に、30歳を過ぎてからは、全体的に低い位置で上下している。
歳のせいかメンタルな問題か分からないが、若い頃に比べて、気分がスカーッと晴れることが少ない。

そうは言いながらも、特掃業務においては、年々パワーが上がっている。
特掃業務に対しては、体力は落ちても、精神力は上がっているのだ。
単に、経験を重ねている がゆえの「慣れ」かもしれないけど、我ながら、「たくましくなったなぁ」と思うことが増えてきた。
そんな今では、どんな現場でも臆することなくズカズカと入り込む。
そして、「こりゃヒドイ!」等と、時には無神経な言葉を吐いてしまう。

そんな私でも、特掃を始めた頃はいつもビビりながら現場に入っていたものだ。
あまりの凄惨さに、目を閉じたこともある。
あまりの悪臭に、一分と部屋に留まれなかったこともある。

そんな初々しかった頃の話。
とある1Rマンションの一室。
腐乱現場はトイレだった。
依頼者はマンションのオーナー。

玄関を開けた途端に強烈な腐敗臭とハエが襲ってきた。
それだけで、逃げたい気分。
内心ではかなりビビっていたのだが、そんな心情を依頼者に悟られてはマズイので、精一杯気丈に振る舞った。

玄関を突破し、問題のトイレの前へ。
悪臭が外にもれないように、玄関ドアは閉められてしまった。
もちろん、依頼者は外。
薄暗くて臭い室内には私一人きり。
その時点で、既に半泣き状態。

しばらく悶々とした後、勇気を振り絞ってトイレのドアを開けてみた。
すると、衝撃の光景が目に飛び込んできた。
液化汚物になった元人間が床一面に溜まっていたのだ。
ユニットトイレの床は、液体を浸透させないから、腐敗液はドア下面までなみなみと溜まっていた。

気持ち悪さを通り越した嫌悪感で、私の脳と心は、「イヤ!嫌!イヤ!無理!ムリ!無理!」と、完全な拒絶反応を示した。
まるで、脳ミソと心臓が、プルプルと横振れするかのように。

「これをきれいに掃除するのが俺の仕事(責任)か?」
そう考えると物凄い重圧がのしかかってきた。
更に、何とも言えない惨めで悲しい気分に襲われた。

「何で俺がこんなことしなきゃならないんだ?」
「生きていくためか?」
「食っていくためか?」
「俺は、こんなことをしなきゃ生きていけない人間なのか?」
その葛藤の中で、私は深く落ち込んだ。
「最低だ・・・最悪だ・・・」
私の心は完全に泣いていた。

あれから、私も歳を重ねた。
葛藤と戦いの日々に変わりはないが、私は強くもなり弱くもなった。
頑張れるときもあれば、頑張れないときもある。
晴れの日もあれば、雨の日もある。

日々の気分にも波はあるし、人生にも波がある。

私には、凪の道ではなく波浪の道が定められているのだろうか(それとも水中?)。

今でもアップアップ状態なのだが、どうせならビッグウェーブを待ちたい(望みたい)。
波にのまれるのもよし、乗れれば尚よし。
それが私の人生。
でも、希望の浮袋を持っていれば、とりあえず溺れることはなさそうだ。

私のアップアップ人生は、まだしばらく続きそうだ。

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