特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2006年分
特殊清掃「戦う男たち」
深刻な深呼吸
季節は初冬、現場は老朽一戸建。
閑静な住宅街に、その家だけが異様な雰囲気を醸し出してした。
「近所付き合いなし!」
「発見が遅れてもやむなし!」
と、家が語っていた。
腐乱場所は奥の洋間。
死亡推定日が間違いじゃないかと思うくらいに酷い状況だった。
「真夏ならいざ知らず、この季節でこの汚染とは・・・」
私は、ガッカリしながら作業手順を頭の中で組み立てた。
本来なら、汚染部を先に片付けたいところだったが、家財(ゴミ)が多すぎてそれができなかった。
猛烈な悪臭に閉口しながら、まずは家財を梱包して搬出。
私がいつも使っているマスクは、安物の簡易マスク。
防臭より防塵優先。
悪臭は、余裕でマスクを通り抜け、鼻から肺に入ってくる。
ん!?ちょっと待てよ。
これを書いていて気付いたが、ひょっとすると、大量の腐敗臭を吸ってきている私の肺は、腐敗臭にバッチリ冒されているかも?
だとすると、私の吐く息は腐乱死体の臭いがするのかな?
調度、タバコと同じような原理で・・・。
ウェ~ッ!
そう考えると、自分で自分が気持ち悪い!
話を戻す。
腐乱現場では、本能的に浅い息で通す。
とても、深い息ができる所ではないから。
ま、それが適度な酸欠状態をつくりだして、脳的にも作業をしやすくしてくれているのかもしれない。
家財の梱包・搬出を終え、やっと汚染箇所に着手。
汚腐団をたたみ、汚妖服を拾った。
汚妖服に言及するのは初めてかと思うが、早い話が「故人の着衣」。
警察が遺体を片付ける際に脱げてしまうのだろう(あえて脱がせているとは思えない)、汚妖服が現場に落ちていることは多い。
腐乱死体が着ていたものだから、普通じゃない。
タップリの腐敗液を吸っているのが常。
現場によっては、ベトベトの腐敗粘土にまみれているモノもある。
また、故人が脱いだ汚妖服は、その後はウジが着ていることが多い。
次は、床に敷いてあるカーペットに手をつけた。
どうも、二枚重で敷いてあるらしく、まずは上のものを剥がした。
ネチョネチョと捲くれ上がるカーペットの間にも、腐敗液が浸透して粘土状態になっていた。
「ミルクレープみたいだな」
二枚目のカーペットを見て驚いた。
「ん!あったかい?」
「これ、ホットカーペットじゃん!」
「しかも、スイッチONのままじゃねぇかよ!」
「誰かスイッチ切っとけよーっ!」
こんな状況じゃ、遺体の分解もはかどるし、ウジだってスクスクと育つに決まっていた。
「あ゛、い゛、う゛、え゛、お゛ーっ!」
と、くだらない悲鳴を上げながら、ホットカーペットをコンパクトに丸めた。
「ウジロール完成!」
そんなこんなで、その現場を終えた(楽しそうに書いていても、実際は全然楽しくない)。
現場を離れても、腐乱臭が鼻に着いているのは毎度のこと。
それは仕方がないものと諦めている。
風呂に入れば、だいたい落ちるんで。
しっかし、肺にまで腐乱臭が付着していないことを祈るばかりだ。
身の回り、見渡す世の中は空気が汚れている。
たまには、きれいな所に行って、のんびり深呼吸したいもんだな。