特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2006年分
特殊清掃「戦う男たち」
ドボン!
20代前半の頃、私が精神科に通っていたことは以前にも書いた。
そして、死体業を始めて間もなく、通院をやめたことも。
もともとの私は、神経質なマイナス思考者。
不安神経症的な性格でもある。
ある局面において、人は二つのタイプに分かれるらしい。
何かの障害に遭遇したとき、「克服できない理由ばかりを並べ立てる人」と「克服できる術だけを考える人」に。
後者のタイプに憧れ続けているけど、私は明らかに前者のタイプ。
強い自分に、ポジティブな自分になりたいのに、現実にはいつまでも弱い自分がいて、自分で自分が嫌になることも多い。
正直言うと、今でも生きることが虚しくなったり、疲れることがある。
何もかもがやたらと虚しく思えたり、生きることは疲れることばかりのように思えたりすることがあるのだ。
夜の就寝中、「このまま朝が来なきゃいいのに・・・」と思うこともある。
分かりやすく言うと、私は今でも極度の落ち込み(鬱)状態に陥ることがあるのだ。
「鬱 」と言うと誤解を招きやすいので、「心の闇」とでもしとこうか。
その心の闇は、圧倒的なパワーで、時々、私を支配する。
そして、その闇を払拭するには、それなりの時間とかなりのエネルギーを要するのだ。
弱音を吐くのはこれくらいにして、「不慮の事故」について触れておこう。
心の闇に支配されて元気のない私は、ある特掃に出向いた。
現場は風呂場。
浴槽には、コーヒー色の謎の液体が溜まっていた。
表面には黄色い脂の玉が浮き、クラゲでもいるかのように皮が漂っていた。
汚水は濁り、浴槽の底は見通せなかった。
もちろん、モノ凄い悪臭。
「はぁ~っ・・・」
思わず、深い溜め息がでた。
「これを掃除しろってか・・・」
床や浴槽の縁も、腐敗液・腐敗脂でベタベタで、ヌルヌルととても滑りやすかった・・・。
まずは、網で固形物を掬い取った。
特掃における浴槽からは、どの家でもだいたい似たようなモノがでてくる。
故人に失礼を承知で、あえて言わせてもらおう。でてくるモノは、総じてドロドロして臭く、ロクな物じゃない。
次にやらなくてはならなかったことは、浴槽に溜まった汚水を抜くこと。
誰がやったのか知らないが、既に栓は抜かれていた。
栓が抜けているのに、汚水が溜まったまま。
と言うことは、排水口か排水管が何かで詰まっていると言うこと。
謎の風呂では、何が詰まっているのか簡単に想像できる。
そう、元人間が詰まっているのだ。
「後先も考えずに栓を抜くとは・・・まったく、余計なことをしてくれたもんだなぁ」
私は、嘆いた。
「さてさて、これからどうしようかなぁ」
私は、悩んだ。
「手を入れてみるしかないか・・・」
私は、覚悟を決めた。
片腕に長い手袋を装着した私は、謎の風呂に恐る恐る腕を差し込んだ。
水圧と水温が、私の腕にリアルに伝わってきた。
上腕まで汚水に浸けると、濁った汚水に阻まれて自分の手先が見えなくなった。
そして、水面は私の顔の至近距離に迫ってきた。
「クァ~ッ!ヤッベー!」
その状況に我慢できなくなった私は、一旦腕を引き上げることにした。
姿勢を変えようとした途端、踏ん張っていた足が滑り、私の身体は前のめりに崩れたのであった・・・。
「不慮の事故」→「風呂場で起こったショッキングな出来事」→「ドボン!」
その後のことは想像に任せる。
続きを書けるくらいに、早く元気になりたいもんだ。