Home特殊清掃「戦う男たち」2006年分歯車

特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2006年分

特殊清掃「戦う男たち」

歯車

ある日の夜、電話が鳴った。
遅い時間帯だったので、「仕事か?」と思ってドキッとした。
(夜に電話が鳴ると、色んな意味でドキッとする。電話だけならまだしも、現場出動になると気分はブルー。)
電話のディスプレーには友人の名前が見え、ホッとして電話にでた。

電話の主は学生時代の友人だった。
某大手企業勤務であることと、そこでの肩書が彼の自慢。
仕事関係の飲みから帰宅したばかりらしく、酔っているようだった。

私も酒は好む。
ただ、仕事として飲むのはかなり苦手。
幸い、この仕事では、仕事上で酒を飲む機会は少ない。
特掃に「接待」なんてあり得ない。
当たり前のことだが、接待することもなければ接待を受けることもない。
死体を接待?死体から接待される?→ジョークにもならないね。

そんな私に比べて、友人を含めた一般のビジネスマンは楽じゃなさそう。
自分の気持ちを押し殺して愛想をふりまき、自分の身体をかえりみずに酒を飲む。
想像すると大変そうだ。
「夜遅く、悪りーな」
「どうかしたか?」
「ちょっと、ムシャクシャしてな」

友人は、会社(上司)の自分に対する評価に不満があるようだった。
それで、当夜は職場の上司と飲んでいたらしかった。
上司と話しても気が収まらないのだろう、私にまで電話してきて不満をぶちまけてきた。

「まったく、納得いかねぇよ!そう思うだろ?」
「よく分かんないけど、評価してもらえるだけでマシじゃん」
「なんでだよ」
「俺なんか、評価もへったくれもないぞ」
「・・・」
「でゆーか、誰も評価してくれないんだぞ!」
「・・・誰かに評価されたいのか?」
「あー、評価されたい!」
「へぇ、そんな仕事やっててもか」
「正確に言うと、仕事の評価は求めてない・・・てゆーか、諦めてる」
「じゃ何の評価?」
「カッコよく言うと、人としての評価かな」
「何?それ」
「人格だよ、人格!」
「人格ねぇ・・・負け犬の遠吠え、きれいごとにしか聞こえねぇよ」
「いいねぇ、そのストレートパンチ」
「ごかすなよ」
「オマエ、仕事の成績がイッチョ前なだけで、人として好かれてないんじゃないの?」
「ゲッ!思いっ切り、ストレートパンチ」
「しかも、それって自分でも分かってんだろ」
「きっつー!俺をノックアウトするつもりか?」

友人は、しばらく黙りこんだ。

「偉そうに言ってるけど、オマエはどうなんだよ」
「俺か?やっぱ人間関係は苦手だな」
「人間より死体相手の方が楽ってか?」
「図星!」
「マジ!?」
「自分でもよく分かんないけど、ある意味で死体相手の方が楽だったりすることはあるな」
「マジかよぉ」
「もちろん、死体相手も楽じゃないけどな」

友人には理解できない話だった。

「大事だっつー人格は備わってるのか?」
「全然」
「金は?」
「安い」
「それで、誰も評価してくんないのか・・・オマエ、可哀相なヤツだな」
「ご親切な同情、ありがとう」

私の仕事には人事考課も査定もない。
給料は、売上・利益に応じて上下する。
特異な小集団では、肩書がついたてころで社会的には無意味。

「評価に不満があるなんて、俺にとってはただの贅沢病だよ」
「仕事の成績は、自分一人の力で獲得したと思うなよ」
「上司・同僚・部下がいなかったら無理だろ?」
「会社・組織のチームワークを大事にしてたら、自然に好かれるキャラになれんじゃないの?」
「そうすれば、納得のいく評価が得られようになると思うよ」
「頑張れよ!歯車」
「俺も、歯車になれるように頑張るからよ!」

そう言って電話を切る、孤独を愛する淋しがりやな私であった。

このページのTOPへ

お問い合わせ

WEBエッセイ「特殊清掃・戦う男たち」

特殊清掃 よくあるご質問

特殊清掃 取材・公演依頼

対応エリア

対応エリア
関東全域をメインに対応いたしております。
その他、全国も関連会社より対応いたします。