Home特殊清掃「戦う男たち」2007年分再会(中編)

特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2007年分

特殊清掃「戦う男たち」

再会(中編)

私は、住民達の立場を考えてみた。
その苦境は容易に想像できた。

地域に葬式場が建設されるだけでも、近隣住民が反対運動を起こすような世の中。
死や死体は、それだけの嫌われ者なのである。
しかし、このマンションにとってはそんなの可愛いもの。
何てったって、腐乱死体現場が放置されたままになっているのだから。

想像してみてほしい。
自宅の隣家が腐乱死体現場で、更に腐乱臭まで漂ってくる状態での生活を。
ツラいに決まっている。
この私ですら、そんな暮らしはまっぴら御免!無理だ。
賃貸マンションなら住み替えも考えられるけど、ここは分譲マンション。
逃げたくても、そう簡単には逃げられない。

そんな住民を、私は気の毒に思ったし、何とか要望に応えたいと思った。
「んー・・・じゃあ、住民の皆さんと管理会社さんとの共同責任と言うことで、やれるだけやりましょうか・・・」
そういうことで、簡単な消毒と防臭作業をやることになった。

悪臭の元が残っている以上は、消臭作業にも限界がある。
腐乱痕を放置したままでは焼石に水。
私は、故人宅の外に悪臭が漏れ出さないようにすることに主眼を置くことにして、部屋中に目張りを施した。
換気口や戸窓をはじめ、排水口などの外気とつながりそうな箇所を徹底的に塞いだのだ。
それから、一時しのぎの消臭芳香剤を使用。
最後に玄関を念入りに密閉。

「これで完了、しばらく様子をみて下さい」
私がそう言うと、住民達は少し安心した様子だった。
私自身が放つ腐乱臭が、私の仕事の説得力を増したようにも思えた。

そうして、私は現場を後にした。
「相続人も見つかりそうにないし、また来ることはないかもな」

それから何日か経ったある日、管理人から連絡が入った。
このマンションのことをすっかり忘れていた私は、瞬時には思い出せなかった。

「故人の関係者が見つかりました!」
「え!?見つかったんですか?」
探し出すのが絶望的と思われていた故人の関係者が見つかったらしかった。
私は、妙に嬉しくなってテンションを上げた。

後日、私は再び現場に出向いた。
現場には「故人の関係者」とされる中年の女性がいた。
聞くと「元妻」と言うことだった。
「元妻か・・・関係者なのか関係者じゃないのか、よく分かんないな」

私は、女性を伴って再び玄関の前に立った。
アノ腐乱臭は臭ってこなかった。
「とりあえず、防臭作業は成功だな」
そう思いながら、私は自分で貼り付けた目張りを剥がした。

「入ってみますか?」
私が尋ねると、女性は重い表情で首を横にふった。
「そう、無理に入ることはないですよ」
女性は泣いてはいなくても、重苦しそうな表情をしていた。

女性と故人は数年前に離婚していた。
このマンションは、何年かの結婚生活を経て手に入れたマイホームだった。
時折、笑顔が浮かぶその話しぶりから、タップリの楽しい思い出が詰まっていることが伺えた。

しかし幸せな夫婦生活は、夫(故人)のリストラを機に崩れていった。
なかなか新しい仕事に就けない故人は鬱病を煩っていった。
就職活動にも挫折、次第に家に引きこもるようになった。
そのうち、経済的にも精神的にも耐えられなくなり離婚。
何よりも、故人が毎日のように「死にたい、死にたい」とふさぎ込んでいる姿を見るのがツラかったらしい。
「本当なら、私が受け止めて支えてあげられればよかったんでしょうけど・・・」
女性は、後悔と諦めの表情でつぶやいた。

離婚してから、二人は会ってもいないし、女性がこのマンションに来ることもなかったらしい。
気にはなっていたけど。

そんな話しを聞いていると、人生の羽陽曲折をしみじみ感じた。

女性は私に、
「部屋の中の貴重品を探し出してほしい」
と依頼してきた。
そして、
「私が一緒に住んでいた頃と変わっていなければ・・・」
と、家具の見取り図に書いて、貴重品のありそうな所を私に教えてくれた。

「俺は、また腐乱臭漬になるのか・・・」
私は、玄関のドアノブに手を掛けた。

つづく

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