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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2007年分

特殊清掃「戦う男たち」

おでん(前編)

故人を納めた柩に、生前の愛用品や嗜好品を入れる遺族は多い。
そして、お菓子など、軽い食べ物を入れることも珍しくない。
ただ、食べ物でもやっかいなモノがある。
水分を多く含んだものだ。
水分が多いものは中途半端に燃え残るだけでなく、火葬炉の燃焼効率を落としてしまうらしい。
場合によっては、遺骨を汚してしまうことも。

水分の多い食べ物というと、果物や飲物が代表的。
いくら故人の好物とは言え、スイカやメロンを丸ごと柩に入れることはほとんど不可能。
リンゴくらいでも、丸ごと入れるのは避けた方がいい。
丸ごとOKなのは、せいぜいミカンか、それよりも小さなものに限られる。ま、大きな果物でも小さくカットすればOKなんだけど。

飲物の場合は、やはり酒類が多い。
アル中?の私は、この気持ちはよく分かる。
日本酒や焼酎は、小さい紙パックのものがあるからまだしも、瓶か缶に限られるビールは簡単には入れられない。
「どうしても入れたい」
と言う場合は、蓋付きの小さな紙コップに入れ替えてもらうようにしている。
しかし、やはりビールは瓶か缶のままがいい。
美味しそうなビールが、容器を変えた途端にマズそうなビールになってしまう。
遺族や故人に申し訳ないような気持ちになるけど、火葬場(火葬炉)の都合もあるので仕方がない。

故人は老年の男性。
遺族(故人の妻子)は、
「柩に、お父さんが好きだったものを入れてあげたい」
と言いだした。
それは、よくあるケース。
しばらく検討した結果、「おでん」が挙がってきた。
なかなか珍しい選択だった。

「おでん?・・・故人の好物なのは分かるけど、おでんとはなぁ」
私は、どうやって入れてもらおうか考えた。
ビニール袋におでんを入れてもらうことも考えたが、あまり美味しそうに想像できない。
そこで、コンビニにあるような容器を用意してもらい、その中に入れてもらうことにした。

そうは言っても、無制限に入れる訳にはいかない。
特に故人が好んでいた具材を、4~5点選んでもらうことにした。
そして、ダシ汁も最小限にするように伝えた。

実際のおでんはまだ作られていなかったので、私は後日のためのアドバイスをするに留まったが、入れる量はくれぐれも少なめにするように念を押した。
火葬場からクレームがくると大変なことになるので、私も保身に走らざるを得なかった。

故人が特に好んだ具材は玉子らしかった。
これには、私も頷いた。
ただ、玉子は一度に何個も食べるのは身体(健康)に悪いということで、いつも数を制限して食べていたらしい。
そんな訳で、最期になる今回、遺族はたくさんの玉子を入れそうな雰囲気であった。

ちなみに、私が好むおでん具材は、大根・こんにゃく・スジ肉、そして玉子。
逆に、あまり好きじゃないのは、ハンペン・竹輪ぶ(私のケータイでは「ふ」の字がでない)、どちらかと言うとツミレも苦手な部類。

こんな風に思っているのは私だけかもしれないが、おでんって御飯のおかずにもしにくいし、酒のツマミにもしにくい食べ物だ。
濃くもなく薄くもない中途半端な味付けと、汁物か煮物が判断しにくい風体が、私にとってはシックリこないのだ。
だからと言って嫌いな訳じゃない。
ただ、その味より温かさや季節感・雰囲気を楽しむ食べ物のように思っている訳だ。
(この自論には、多くの人から異論を唱えられそうな気がする。)

故人を柩に納め、中を整えた私。
一通りのおでん指導も済んで、あとは柩の蓋を閉めれば作業終了となるはずだった。

そんなところで故人の妻が発した一言が、この後、物議をかもすことになってしまうのである。

「お父さんは玉子が好きだったんだけど、殻を剥くのを面倒臭がってたのよねぇ」

つづく

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