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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2007年分

特殊清掃「戦う男たち」

血闘

今回の表題は、「決闘」ではなく「血闘」。
言葉としてはおかしいかもしれないが、特掃の中には「血闘」と言いたくなる現場が多くある。
まさに、人間の血と格闘する現場だ。

そのほとんどは、血管を切ったうえでの自殺。
そんな現場は強烈なインパクトをもって、何かのメッセージを視覚に訴えかけてくる。
ホントは、何のメッセージもないのかもしれないけど、少なくとも、その時私の精神が揺れ動かされることは間違いない。

人の血は、どうして赤いのだろう。
そして、その色にはどんな意味があるのだろうか。
血は、鮮度に応じて赤から黒へと変色していく。
赤い血には生を、黒い血には死を感じる。
赤は命の色、黒は闇の色。

ワンルームマンションの玄関を開けて、私は驚愕した。
フローリングの床が、一面に赤黒く染まっていたのだ。
そして、何度も嗅いだことがある血の臭いが鼻を突いてきた。
腐乱臭も同様だが、鼻が慣れるよりも精神が慣れる方が時間がかかる。

「人間って、こんなに多くの血があるもんなんだぁ」
大量に流れ出た血を見ながら、感心にも似た溜息をついた。
「また、自殺かぁ・・・」
ここの故人は、手首を切っての自殺したらしく、発見された時はとっくに手遅れだったらしい。
ワインレッドに染まった布団と服も生々しかったが、私にはそれよりも床に広がった褐色の方が強烈にきた。
更に、壁に飛び散った黒い血痕が衝撃的だった。

比較的、高い位置まで付着した血痕を見て・・・「まるで映画でも観ているようだな」
「手首だけでこんなに血が飛び散るかなぁ・・・首も切ったのかなぁ」
首だろうが手首だろうが、そんなことは私にとってどうでもいいのに、頭の中でそんな詮索をした。

「しかし、これを掃除するのは大変だぞ」
「どういう手順でやろうかなぁ」
床に広がる血は、一部は固体に、一部は半固体(半液体)に、一部は液体のままだった。
考え込んだところで、作業手順が大きく変わるわけでもない。
私は、余計なことは考えないことにした。

作業の日、私は床にしゃがみこんで、隅の方から黙々とそれらを削り拭いた。
根気のいる地味な作業だ。
乾いた部分は、パリパリと固い水飴のように簡単に剥がれていく。
半乾きの部分は、蝋のようで簡単には剥がれない。
乾いてない部分は、溶けかかったチョコレートを拭く感じに似ている。

単調な動きを続けていると、全く違うことを考えていても身体が勝手に動いてくれる。
そして、自分が相手にしているモノが何なのか、余計なことを考えなくても済む。
この状態になると、肉体的はキツくても精神的には楽。

作業時間の経過に比例して、知らず知らずの間に私の身体は血で汚れていった。
特に手や腕は血まみれ。
第三者が見たら、卒倒しそうになるくらい衝撃的な光景だろう。
「頭がおかしくならない?」
と、私のことを奇異に思いながらも心配してくれる人もいるかもしれない。

実際はどうなのだろう。
自問自答してみる。
「頭がおかしいかどうか」は、人が判断してくれるだろうから、自分では考えない(既におかしい?)。
「頭がおかしくならないかどうか」は、微妙なところである。
実際、おかしくなりそうな時もあるからだ。
「血の海+故人の自殺」と言う現実は、まともには受け止めようがない。
そんなことをしたら、自分が潰れる。
「俺は掃除屋だ」
と、事務的にやる方が得策(楽)なのである。
しかし、そのスタンスは意識して堅持しないと、すぐに崩れてしまう。

「故人は何歳だったんだろう」
「何で自殺なんかしたんだろう」
「この手段を選んだ理由は何だろう」
「家族は大丈夫だろうか」
等と、少しでも考えてしまうと心臓が重くなる。

「俺は、ただの掃除屋だ」
と、必死に割り切ろうとしても、一度ついた特掃魂の火は消えない。
こうなると、しんどい。
故人と汚物と自分との三角関係において、三位一体になったような現象に陥るからだ。
そんな状態では、作業がツラいのかこの現実が重いのか自分でも分からないままイヤな脂汗がでてくる。
時には涙も流れる。

何故だか分からない。
自殺が続く時期があれば、自殺が止まる時期がある。
その中で、血闘が続く時期があれば、血闘が止まる時期がある。
その要因の一つとして、「気圧の影響」を挙げる人が今までの出会いに何人かいた。
この世界には、人に自殺衝動を起こさせる何かの流れがあるのか?
それは、誰にも止められないのか?

日々の決闘は仕方がない。
受けて立つしかない。
闘いながら生きているのは、私だけではないし。

血闘は私の宿命か。
宿命なら、黙って受け入れるしかない。
黒い血が騒ぐ罪を負いながら。

残念ながら、私の血闘はまだまだ続くだろう。
いつになるか知る由もないが、最後の闘いを終えた後、全ての闘いがなかったかのように忘れさせてほしい。

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