Home特殊清掃「戦う男たち」2007年分ぽっぽっぽ(中編)

特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2007年分

特殊清掃「戦う男たち」

ぽっぽっぽ(中編)

「な!なんじゃ?ごりゃーっ!」
マスクを通じて、自分のの汚叫びが耳にこだました。

部屋は全体的に白っぽく、モヤがかかったように空気が汚れていた。
家具や生活洋品は少なかったものの、部屋の至るところに鳩の糞と羽が散らばり、場所によっては糞が厚い層・山を形成していた。
しかも、それだけじゃなく、鳩死骸と玉子も無数に散乱。
それは、人の腐乱とは趣を変えた、凄まじい光景だった。
普段、簡易マスクだけで現場に入ることも少なくない私だが、この時はゴーグルと防毒マスクを着けておいて正解だった。

「これを片付けろってか!?」
「故人も、よくこの状態で暮らせてたよな」
私は、呆れるやら感心するやら。

しばらく後、作業の日を迎えた。
結局、やるしかなくなったのである。

現場はかなり不衛生。
こんな現場では、まず先に身の安全を確保しなければならない。
身体を厳重に防護し、消毒作業を先行させながらの清掃作業となった。
床面の糞や羽は畳ごと撤去、死骸と玉子はひとつずつ拾うしかなかった。
最初の一羽目を手にするときは、人間腐乱痕に着手するとき以上の抵抗感があった。
動物の死骸って、独特の違和感を覚えるものだ。

「かるぅー(軽い)!」
鳩の死骸は気持ち悪いほど軽く、掴んだ質感はあるのに重量感がない不気味な感覚だった。
また、玉子は鶏卵より小さく、それが散乱している様は異様だった。
過って割ってしまい、中から孵化しかけの腐乱雛でもでてきたら恐怖なので(それを想像しただけでも、充分に恐かったけど)、その取り扱いは慎重にした。

押入の中の糞は特に大量で、集めた糞は土(小砂利)のように重く、何袋もの土嚢ができた。
ひと掬いするだびに粉塵ならぬ糞塵が舞い上がり、煙でもでているかのように部屋中が白くモヤった。
マスクを着けていてもヤバイものを吸い込んでいるような気がして、すぐに白くなるゴーグルをこまめに拭きながら作業を進めた。

汗かきベソかき、何とか部屋をきれいにした後(それでも、とても住める状態ではない)、次の作業場であるベランダに出た。

「うへぇ~、ここもスゴイなぁ」
ベランダも鳩の糞だらけで、何からどう手をつけていいものか、頭を抱えた。
植木も鉢植も糞だらけ。
冊も手摺も糞だらけ。
物干台も物干竿も糞だらけ。
身も心も糞だらけ。

「ベランダには死骸と玉子はないようだな」
私は、ちょっとだけホッとした。
そして、部屋の中と同じようにひたすら奮闘ならぬ糞闘をした。

「ん?」
しばらくして、ベランダの隅に動くモノを察知。
よく見ると、一羽の鳩が座り込んでいた。
そして、私の方をジーッ。
しばらくの間、私と鳩は眼の飛ばし合いをしたまま膠着状態を続けた。

私は少し近づいてみたが、鳩はなかなか逃げようとしない。
「いい度胸してんな」
弱い者には強気にでる私は、バカ丸だしの大人げない身振りで威嚇した。
すると、さすがの鳩も飛んで逃げ、すぐ傍の電線に退避。
それでも鳩はジーッと私の方を見続けていた。
「なんだよぉ」
あまりに凝視され続けると、相手が鳩とは言え背筋にゾクゾクしたものを感じた。

そして、鳩が飛び立った跡にあったものは・・・
「た・ま・ご?」
草枝で造られた巣に、小さな二つの玉子があった。
母鳩が玉子を抱いて温めていたのだった。
「あちゃー、そういうことかぁ・・・悪いことしちゃったなぁ」
鳩に対する敵意の炎は消え、いきなり同情心に変わった。
「ごめん、ごめん」
近くの電線にとまってこっちを見ている母鳩と、巣の玉子に謝った。

母鳩の母性と玉子の温度が冷めないうちに済ませようと、私は急いでベランダを片付けた。
ちなみに、ベランダでは汗はかいたけどベソはかかなかった。
それどころか、何か善いことでもしてるかのような、いい気分で仕事を進めた。

少しして、私がベランダからいなくなると、母鳩は巣に戻ってきた。
それを見て安心する自分を、
「俺って、なかなかいいヤツかもな」
と自己評価(自己満足)。

やっとのことで一通りの片付け清掃を済ませた私は、作業内容と作業結果を依頼者に報告。
ベランダに巣があり、母鳩が玉子を温めていることも伝えた。
それをネタに、依頼者との会話がほのぼのとしたものになることを勝手に期待した私。

「え?ベランダにまだ鳩がいるんですか?」
「ええ、巣を造って玉子を抱いてたものですから、手が出せなくて・・・」(いい話でしょ?)
「困ったなぁ、放っておいたらまた鳩屋敷になっちゃいませんかね」
「しかし、鳩は保護動物ですから殺せないんですよ」(可哀相でしょ?)
「ん゛ー」
「ん?」(何?)
「・・・でしたら、巣と玉子だけだったら大丈夫でしょ?」
「え?まぁ・・・」(まさか・・・)
「やりにくいとは思いますけど・・・」
「えっ?」(始末するの?)
「・・・処分して下さい」
「え゛っ!?」(俺が?)
「お願いしますよ!」
「え゛ーっ!?」(そんな殺生なあぁぁ・・・)

つづく

 

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