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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2007年分

特殊清掃「戦う男たち」

奴隷

「働けど働けど、なお我が暮らし楽にならざり、じっと汚手をみる」

「奴隷のように働かされてる」
とは言えないけど、こんなに働いていても何年も前から生活レベルは一向に上がらない私。
上がっていくのは年齢ばかり。
平均的に生きるとすれば、私の人生マラソンは折り返し地点にさしかかっている。
このまま向上心を持ち続けて攻めるか、諦めて守りに入るか、選択を迫られるつつあるデリケートな年頃だ。

日本もそうだが、ロシアや中国では所得格差の広がりが著しいらしい。
以前に比べて富裕層が増えているものの、それ以上に貧困層の増加が激しいとのこと。
お金が払えなければ、病気療養中の人でも病院から追い出されるような社会で、浮浪者は大人だけにとどまらず多くの浮浪児も発生。
見るに耐えない、聞くに耐えないニュースである。
そんな国の底辺では、それこそ奴隷のように酷使されている人も少なくないのだろう。

しかし、この状況を対岸の火事として済ませていていいはずはない。
日本の景気は長く回復基調にあるらしい。
しかし、その恩恵を受けているのは大企業だけと聞く。
多くの中小零細企業は、大企業の陰で陽の当たらない苦境を強いられているのではないだろうか。
「ワーキングプア」・「チープワーク」等といった言葉が一般化していることを一つとってみても、この社会のどこかがおかしくなってきている気がする。

私の仕事は、世の中の景気は直接的には関係しない。
ただ、一向に自殺者が減らない現実や、質素な暮らしを思わせる現場を多く目の当たりにすることから、好景気の陰で経済的問題を抱える人が増加しつつあることを感じざるを得ない。

今は、特掃の現場でも、
「お金がない」
と言う人(依頼者)が多くなってきた。
そういう事情は率直に伝えてもらった方が私もやりやすいのだが、昔は見栄を張ってでもそんなことを言う人は少なかったように思う。

金銭の事情は一朝一夕にどうこうなるものではないので、そんな時は利益がほとんどとれないギリギリの見積額を提示することがある。
それでも負担しきれない場合は、依頼者と仕事を分担して、労力をもって値引分とする。
特掃は、一般のハウスクリーニングとは一線を隔す仕事。
素人だけでやるには限界があるため、お金がかかっても要所には私のような者の関与が必要になるのだ。

私が死体業を始めたのは、20代前半(若かった!)。
年齢と対比させると、当時は、それなりに割(収入)のいい仕事だったように思う。
学生時代の友人の上を行っていた。
しかし、前述の通り年齢が上がるばかりで、収入はそれに追いついていない。
今は、友人達の下を行っている。
それでも、元気に働けて御飯が食べられることに感謝もしている私。

遺品の回収処分を頼まれた。
現場は、とある一軒家。
故人は病院で亡くなっており、依頼者(中年女性)は義理の娘・つまり息子の嫁だった。

「何もかも、きれいサッパリ捨てちゃって下さい」
故人が使っていた部屋だけは他の部屋とは違いモノとゴミが溢れて、いわゆるゴミ屋敷状態だった。
「なんで、この部屋だけこんなことになってんだ?」
その答はすぐに判明した。
嫁・姑の関係が極めて悪かったのだ。

依頼者(嫁)は、故人(姑)の悪口を言わせたらマシンガンのようで、私の仕事に支障をきたすくらい。
故人に対する欝憤が、相当たまっているようだった。

「婆さん(故人)は、私を何年も奴隷のようにしてきた」
「一人の人間として認めてくれなかった」
「何でも、自分の言う通りにさせた」
「そんな姑でも、私は献身的に面倒みた」
「その姿に、回りの人達も感心して褒めてくれた」

「死んでせいせいした」
と言わんばかりの態度で、とにかく故人の人格を否定し、生きていた形跡を消し去りたいみたいだった。

「まぁ、その家・その家で色んな事情があるからなぁ・・・口のない死人が相手じゃ、好きなことが言えるよな」
耳障りのよくない話を上の空で聞き流しながら、私は見積見分を進めた。

「姑の奴隷か・・・」

子供の奴隷になっている親。
会社の奴隷になっているビジネスマン。
彼女の奴隷になっている彼氏。
金の奴隷になっている私。

そんな乾いた人間模様が、今の社会を映し出す。

 

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